世界経済

AI研究で抗議を受けた米Zoom

昨日号でAIが感情を持つ日が近いと書いたが、今日はAIが人間の感情を分析するという話をしたい。

数年前の展示会でAIを搭載した監視カメラが会場内を行き交う人たちの顔を識別し、「30代、女性」「40代、男性」とリアルタイムでモニター表示していた。
私も監視カメラの前を歩いてみたが、自分が「40代、男性」と識別されているのをみて、AIの性能に半分失望し、半分うれしかったことをおぼえている。

そのAI搭載カメラを小売店やレストランの店内に設置すれば、店内にいるお客の表情を読み取り、喜んでいるのか不満があるのかがリアルタイムで測定できるという。
白い歯が見えていることや眉、眉間の形状、目の形の変化などからお客の感情が読み取れるというのだ。

そのときもかなり驚いてデモを見ていたが、あれから数年経つ。
AIの性能は当然ながら大きく進化した。
今月に入り、アメリカの人権団体がZoom(Zoom Video Communications)のCEOエリック・ユアン氏に対して、AIに関する研究の中止を要求した。

Zoomに映し出される顔や声を手掛かりとして利用者の感情を分析するAI(人工知能)技術の研究をZoomが進めていることに抗議したのである。
人権団体の主張では「感情分析技術による監視は人を傷つけ、従業員のプライバシーや人権を侵害する」というもの。
企業がこの技術を使えば、会議の様子を検証し、場違いな感情を見せた従業員を罰することもできるようになる」と彼らは主張する。

たしかにZoomの表情をみて「A君はやる気がない」「Bさんは熱心で好感度が高い」などと査定や評価に使われてはたまったものではない。
それはテクノロジーの悪用というべきだろう。
だが、Zoomの表情をみてAIが「チーム全体の理解度や納得度が低いので、伝え方やメッセージ内容を変えてみてはどうですか」などと助言してくれるのであれば、テクノロジーの善利用・平和利用となる。

原子力にみるまでもまく科学やテクノロジーには善用と悪用の二つの道があるもの。
人権団体などが悪用の危険性を訴えるのは良いが、「研究を中止せよ」というのは行きすぎた訴えだ。
私は個人的に「大いに研究を続けていただきたい」とZoomに申し上げたい。
何なら無視したって構わない。
100年前の自動車の発明・発売のときも自動車が巨大な雇用機会を奪うと叫ばれたし、25年前に始まったIT革命でもデジタルデバイド(デジタルがもたらす格差)が真剣に議論されたものだ。

もし本当にZoomがAIの悪用に手を貸すのであれば、我々利用者はZoom利用をやめれば良いだけの話。
研究をやめろ、とはいかがなものか
果たしてZoomのエリック・ユアン氏がこの抗議にどう返答するのか、スルーしてしまうのか、密かに注目している。

★Zoom「感情分析AI」に人権団体が抗議 何を心配しているのか?