世界経済

40年前の中国の思い出

今日のYouTube新作

■本物の「経営計画書」があると「No」 を言う機会が増える

経営者というのは多くの要望に応えなければなりません。
しかし、全ての要望に応えようとすることで本当にやらなければいけないことを見失っては本末転倒です。
本当に必要なこと以外には勇気を持って『NO!!』と答えることが非常に大事です。

40年前の中国の思い出

数年前、香港に行った。
ホテルの朝食に付いていたゆで卵の皮をむき、口に入れようとしたが手が滑って床に落ちた。
卵は勢いよく2~3メートル転がった。

カウンターに行って「卵を落とした」と伝えた。
交換してくれると思った私が甘かった。「23香港ドル(約370円)」と言われた
「え、ゆで卵一個が370円?!冗談じゃない、日本のコンビニに行けばせいぜい一個60円。6倍はいくらなんでもぼったくりだ」そう言いたかったが広東語が出てこない。

床に落とした卵も今なら洗って食べられるかもしれないと思ったがそんな真似は許されない。
カウンターの若い女性に向かって「オーケー」と告げ、平然と23ドルを支払った。
今度こそ落とさないように慎重に食べた。
帰りみち、香港国際空港のスターバックスで炭酸水(500cc)を買おうとしたら33香港ドルのラベルが付いていた。
500円ではないか。

「どうなってるんですか香港の物価は」と香港生活が長い友人にかみついたところ、「日本の物価が全然上がってないだけですよ」と彼
たしかに30年間、日本の物価は上がっていない。
ゆで卵370円、炭酸水500円が先進国物価のようだ。

日本にいると分からないことが外国にいくとわかる。
1982年、私は28歳になっていた。
勤務先の社長の許可をとり、青年会議所主催の研修船に乗った。
台湾・香港・中国本土の厦門(アモイ)を巡る船旅だった。

この船旅もカルチャーショックの連続だった。
中国の厦門ではライチの缶詰め工場を視察した。
いかにも年代物の工作機械を何人もの若い中国人が集まって要領悪そうに操作している
通訳の中国人男性に質問してみた。
「どうみても人が多すぎませんか。三分の一の人数でもやれそうに思うのですが。」

通訳の男性は意外そうな顔で私を見つめ、こう言った。
「そんなことをしたら仕事を失う人が出ます。中国は日本より人がたくさんいるからこれでいいのです」
効率とか生産性という尺度が当時の中国には必要なかったようだ。
こういう国もあるんだ、とそのとき思った。

知識労働者と肉体労働者の棲み分けも明確だ。
この研修船から20年以上経ったある日、中国の広州にある日本の工場を視察した。
工場長は日本人だが、工場で働く労働者約1,000人は全員中国人だった。
めざましい勢いで中国の工場は進化していた。

工場長の指導によって工場内はとても清潔できれいだった。
工場長の説明を聞きながら見学していると、菓子袋とおぼしきゴミが床に落ちていた。
私の前を歩く工場長はゴミに気づいたはずだが、またいで行った。
私は一瞬ためらった。
私もまたごうか、それとも拾おうかと。
こんなきれいな工場にこのゴミはふさわしくない。

すると工場長は私の様子に気づき、「武沢さん拾わないでください」と言った。
日本だとリーダーだろうが誰だろうが気づいた人がゴミを拾う。
率先垂範という言葉があり、ゴミを拾うリーダーは美徳とされる。

しかし中国を含む諸外国ではそう受け止めないようだ。
むしろゴミを拾う姿をみて肉体労働者は「自分たちの仲間だ」と思うらしい。
だから毅然とした態度でゴミをやり過ごすことが大切なのだという。
異質な文化や常識に触れたときのカルチャーショックは大きい。
ばらく経っても驚いたことは決して忘れることがない。