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理念の妥協

就職活動している学生たちに企業選びの基準をたずねてみると、相当上位に来るのが「理念や哲学への共鳴」という答えがかえってくる。
経営者の中には「理念なんかでメシが喰えるか」と理念を尊重しない人が少なくない。だが、理念がなければ会社は大きくならないし、大きくすべきではないのである。

それだけではない。もっと厳しい表現をするならば、「理念がない会社は世の中に必要ない」とまで言いきって良かろう。

「理念を曲げちゃならんのです」と京セラ創業者の稲盛和夫さん。
今春から始まったNHK教育テレビの新番組『知るを楽しむ』での一コマだ。
それでもNHKの女子アナが稲盛さんに食い下がる。この女子アナ、もの分かりが悪いのか、それとももの分かりが良いのに番組の進行上あえて食い下がっているのか知らないが、彼女のしつこさがちょうど良い。

女子アナ:「会社を守るためには少しくらい妥協しなくちゃいけない時があると思うのです。もし理念を守ることで会社がつぶれそうになった場合はどうするのですか?」

稲盛さんは即答した。

「その時はつぶすのです」

「理念も哲学もない会社が生き残っても意味がないのです」とまで続けた。

「会社を守るために少しくらいの妥協だったら許されるのでは」と女子。
「いや、決して妥協してはならんのです」と彼女のおかげで稲盛節がさらに炸裂しだした。

曰く、
少しくらいという気持ちで一度妥協すると、今度は妥協したところが新しい判断基準になる。次には、その基準からまた妥協していって、どんどん基準が緩んでいく。
本人は「うちの会社には理念が存在する」と思っているが、実際にはそうした会社には理念はない。

というような話をされた。

「うちの地域においては、同業者全体が違法ギリギリの行為をしていますから、うちだけが合法で勝負していては会社が成り立たないのです」と若い経営者。彼の会社には素晴らしい理念がある。
だが、私が知るかぎり、業界全体・地域全体が違法で成り立っているような事実はひとつもない。それは彼の周辺だけの話である。

彼の場合、理念を中心にした新しい世界に住むことを目標にしよう。妥協してはならないのだ。

NHK『知るを楽しむ』
http://www.nhk.or.jp/shiruraku/200606/wednesday.html