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事故の歴史展示館

「忘れかけたころにドカーンとくる」と語るのは住宅会社を経営するA社長。この会社では、2~3年に一回とてもシリアス(深刻)なミスを犯し、その都度会社をあげて大騒動になるらしい。
どの程度シリアスなミスかというと、

・図面と実際とで南北が真逆の家を建ててしまう
・他人の敷地まで入り込んだ図面で工事を始める

など、部外者がみても「あり得ない」ほど初歩的かつ致命的なミスをやってしまうのだ。

しかもこうしたミスが先月もおきた。

それは、協力企業の水道管工事でのイージーミスだった。
二階トイレの水道管に一箇所だけバルブの締め忘れがあったため、家主が長期不在の連休中にそこから水が漏れ続け、一階の天井から床、家電製品やクローゼットの衣料、ピアノなどが水浸しになったという。

談金として損害額+慰謝料で解決しようとする会社に対し、家主側は逆上。建物の解体建て替え+慰謝料を請求。
訴訟に発展しそうな雲行きだという。家の引き渡し時には大喜びし、感謝しておられた家主だけに、わずかその半月後にこのような事になるとは・・・。

歴史ある住宅メーカーでありながら、なぜ今でも時々このようなシリアスミスが発生するのだろうか。これはやむを得ないことなのだろうか?

正常な学習能力がありさえすれば、人間は過去の失敗に懲りて同じような過ちは犯さないはずだ。だが、それは同一人物が同じ失敗をくり返さないというだけの話だ。会社として失敗体験の共有やその再発防止がうまくゆかないのは、失敗経験を個人だけのものにしておくことや、失敗をすぐに風化させてしまうことに原因があるのではないだろうか。

ことわざに「羮に懲りて膾を吹く(あつものにこりてなますをふく)」というのがある。
これは、吸い物(あつもの)の熱いのにすっかり懲りて、冷たいなます(酢あえ)までふうふうと吹いて食べるという意味で、失敗に懲りて次からは用心しすぎることを例えたものだ。
用心しすぎるのも問題だが、失敗経験を風化させてしまうケースの方が多いのではなかろうか。

「失敗を風化させてはならない」といえば、失敗の展示館を作っている会社もある。JR東日本もそのひとつで、過去の事故の教訓を風化させないために2002年に福島県白河市にある同社の総合研修センター内に「事故の歴史展示館」を開設した。

この展示館では、事故現場のパネル写真、直接要因、経過、状況、新聞報道、その後の対策などについて展示。信号無視、災害など原因別に25の事故の紹介もされている。
事故の重大さ、社会的責任を実感させるため、報道と被害者の証言コーナーもあって、”これでもか” というくらい生々しく過去を今に伝えているという。

当然、これはJR社員の安全意識を高めることを目的としたものだ。

毎日の標準化された現場作業のやり方は、すべてこうした過去の失敗や成功の体験から抽出されたエッセンスなのだということを思い起こすことに役立っているはずだ。
本音では、一日も早く消し去りたい過去の負の記憶だが、企業としては永遠に忘れることがあってはならない貴重な体験なのである。

さて、あなたの会社でできる「事故の歴史展示館」というものを考えてみようではないか。