昔、チェーンストアに勤務していた頃、こんなことを先輩から教えられた。
「いいか、武沢君。社員のモティベーションに期待するようではいけないんだ。部下のモティベーションの有無や高低に依存しなくても良い結果が出るのが本当のシステムだ」
たしかに一理ある。もともとやる気には個人差があり、個人差があるものに依存していては均一の成果が出ないので、だったら最初からそれに依存しないほうが良い、という考え方だ。
たしかにマンパワーだけに依存し、システムを軽視するのは問題がある。
だが、時代は変わり、常識も変わった。
チェーンストアや製造業など、いつでも均一な品質が求められる業界にあっても、モティベーションに依存する経営が大切だ。ましてや、知識集約産業にあっては、社員の意欲がないような会社には次の仕事がこなくなる。
そこで、『熱狂する社員』(デビッド・シロタ著、英治出版)を読んでみた。これは、情熱にあふれた社員を作るための本である。
そのために、会社も経営者も大きく変わらねばならないという気にさせてくれる本だ。
同著によれば、情熱的な社員が働く会社は調査全体の13.8%に過ぎなかったという。(1972年以降最近までの米国における調査)日本でも上場企業の20~30才代の4分の3が無気力を感じ、2分の1が潜在的転職願望をもっているという。(2005年野村総研調査)
つまり、米国でも日本でも社員が情熱的な会社は少数しかないということだ。
なぜそうなるのだろう。会社も社員もそれを望んでいるはずなのに、なぜモティベーションが上がらないのか?
それは、無気力な社員が悪いのではなく、会社が社員をそのようにしてしまっていると考えた方が良かろう。
ましてや中小企業では、ほとんど社長一人の姿勢や判断によって社員の意欲が上がったり下がったりしていると言って良い。
経営者の責任は重いのだ。
『熱狂する社員』では、モティベーションの三要素として、
・いかに公平感を感じるか
・いかに達成感を感じるか
・いかに連帯感を感じるか
をあげている。
「公平感」「達成感」「連帯感」。それぞれの妨げになることやプラスになることは何なのかを整理して理解しておく必要があるのだ。
たとえば、
A子:「ねぇねぇ、夕べのあのドラマ見た?」
B子:「あ、あれでしょ。あれってさあ・・・」
C課長:「君たち、勤務中の私語は慎みなさい!」
このように、勤務中のおしゃべりや休憩を禁止している会社は多い。
周囲に害をまき散らすような私語は禁止して当然だが、画一的に「私語・休憩時間以外の休憩禁止」で良いのだろうか?
私たちは前時代の常識、「休憩やおしゃべりは労働のサボータージュ」という考えを今も後生大事に持ちあわせていないだろうか。
今では、社員に対して積極的に休憩や仮眠をとるように進めている会社だって増えてきた。それどころか、マッサージチェアが備わった快適な仮眠室や瞑想室がある会社だってある。
熱狂する社員を作れるか否かは、戦略テーマでもある。
働くことに関する古い常識を捨て、最新の事例を学び、対応しよう。
「熱狂する社員」 (デビッド・シロタ著、英治出版)
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