コンサルティングの依頼主が大企業の場合と、中小零細企業とでは、少し状況が相当異なる。
大企業では絶えず外部の専門家やコンサルタントが複数働いていて、誰が社員で誰がコンサルタントかわからないほど渾然一体となって仕事をしている。要するに彼らは慣れているのだ。
一方、依頼主が中小企業や零細企業、ベンチャー企業になると基本的には外部の人間との共同作業に不慣れである。免疫もない。
だからあなたは、充分に人間心理をよく理解した仕事をしなければならないし、一人で何役もの役割をこなさねばならない。
時には先生役を、時にはコーチ役を、時には相談役を、時には医師役を、時には鬼軍曹役、時にはチアリーダー役をこなさなければならないのだ。
中小企業の社長から、営業改革のためにあなたにコンサル依頼が来たとしよう。
依頼主である社長は、あなたが辣腕ぶりを発揮して「こうすべきです」「そのようにしてはいけません」などと社内を仕切ってくれることを望んでいるに違いない。
だが、実際に現場を預かる部長や社員は、理由のいかんにかかわらず外部からやってきたあなたに対して最初は何らかの敵がい心を持っているものだ。
できるものなら「失敗して早くクビになってほしい」と願っているかもしれない。そうしたマインドを中小企業の社員は持ちがちなものであることを理解しつつ、仕事せねばならない。
同時に成果を上げるということに対する意欲と責任感は誰にも負けてはならない。同時に謙虚である必要もある。
『コンサルタントの秘密』(昨日号参照)に次のような記述がある。
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誰の手柄になるかを気にしていたら、何も達成できない。しかし、コンサルタントが手柄を認めてもらうためには、逆説的なことながら、一見何も達成していないように見える必要がある。
あとでまた呼んでもらえるのは、そうしたコンサルタントだけである。
「有能な」コンサルタントがいる場所では、「依頼主が」問題を解決する、ということである
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間違っても「あの会社は、私の指導によって売上げが伸びた」などと、コンサルティングの手柄を独り占めしてはならない。
もしそれが事実だとしても、そうした態度のコンサルタントに次の仕事依頼はこなくなる。
「すべて顧客の力です」、などとへりくだる必要もないが、そもそも誰のおかげで成果が上がったかなどを気にすること自体がナンセンスなことではないだろうか。
依頼主のメンツを充分に尊重しながら成果を上げ、そして自慢しないのがプロのコンサルタントなのだ。
『コンサルタントの秘密 技術アドバイスの人間学』(共立出版)
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