賃貸マンションの斡旋会社を経営する太田垣社長(仮名、46才)は、大手肌着メーカーの早朝会議の本を読んで啓発され、朝の大切さを強く感じた。
「よし、うちでもまずは10分程度の朝礼をやろう」
だが、この試みは一ヶ月も続かないうちに破綻した。太田垣いわく、
「本当は朝礼をバチッとやりたい。だが、毎日の朝礼ネタがなくて、かえって朝からムードが盛り下がってしまう。眠そうな顔ばかりが居並ぶ朝礼なんてもうやめだ!」
そんな太田垣に対して友人の米野は、「良かったらうちの朝礼を見に来ないか。朝から結構盛り上がるぜ」と誘った。さっそく翌朝、米野の会社の朝礼に参加してビックリさせられることとなる。
約20名の社員は、朝礼の5分前には姿勢を正して朝礼場所に勢揃いしていた。米野社長の簡単なあいさつのあと、業務打ち合わせが数分で終了する。
そして、その後に一人一分間のスピーチが毎日3人あるというのだ。そのスピーチテーマがとてもユニークなのだ。
例えば「昨日食べたごはん」、「最近観た映画」、「今年読んだ本」「大笑いしたこと」、「ちょっとしたサプライズ」など、個人的体験を1分にまとめて話すのだ。
そして、話を聞き終わった他の社員がスピーチの内容を評価する。
パーティなどで使われる「○」と「×」のプラカードを手に持ち、司会者の「あなたの気持ちをどうぞ!」の声でいずれかを高く上げなければならない。
そして、過半数が○であれば、スピーチした本人に1ポイントが付く。
月間獲得ポイントが最も高い人が月替わりの景品をもらえる仕組みになっている。先月はアロマキャンドルセット、先々月は電波時計のクロックだったとか。
朝礼が終わり、皆が笑顔で仕事につく。感心する太田垣に向かって米野は、「どうだい、楽しそうだろう」だが悔しさも手伝ってのことか、太田垣はこんなことを口走った。
「たしかにゲーム的な感じで楽しそうだ。だが、人が食べたご飯の話を聞かされたって、聞いている方は何にも参考にならない。もっと皆のためになるような知識や情報を盛り込んだらどうなのかい」
すると米野は、
「うちも昔はそうしてた。だが人のためになるスピーチを要求したら長続きしないことがわかったんだ。長続きするためには、日常の話題にしなきゃだめなんだよ」
「なるほどねぇ」と太田垣。
「なあ、太田垣。”人間みなセールスマン”なんだ。営業の仕事をしていようがいまいが、自分の仕事をきっちりと第三者に売りこめる営業力が皆に必要なんだよ」
「たしかに」
「だったら、昨日の食事の話をして、聞いた相手が”おいしそう、私もそこへ行きたい”と思わせるような話し方ができるようになる必要があるんだよ。朝礼のスピーチはその練習だと思ってやっている」
「そうか、そういう意味か。だからみんなが○と×で自分の気持ちを伝えていたのか」
これは少々だけアレンジしたが、名古屋の会社の実話である。