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ドラッカーの失敗

「君が入社してきたときはあまり評価していなかったし、今もそれは変わらない。君は、思っていたよりもはるかに駄目だ。あきれるほどだ」と、若きドラッカーは勤務先の社長から酷評を受けた。

これは、ドラッカー著『プロフェッショナルの条件』(ダイヤモンド社)に、出てくる氏の実話だ。
保険会社の証券アナリストから転職し、投資銀行のエコノミストとなったドラッカー。
上司の補佐役の仕事をやっていたある日、年配の創業者に言われた言葉が冒頭のキツイ文句だ。

ドラッカーは当惑したことだろう。なぜなら、この酷評を下した社長をのぞく全員が、ドラッカーを連日のように誉めちぎっていたからだ。あっけにとられるドラッカーを前にして、この社長は理由を聞かせてくれた。

「君が前の会社(保険会社の証券アナリスト)でよくやっていたことは聞いている。しかし、証券アナリストをやりたいのなら、そのまま保険会社にいればよかったではないか。今君は、補佐役だ。ところが相変わらずやっているのは証券アナリストの仕事だ。今の仕事で成果をあげるには、いったい何をしなければならないと思っているのか」

成果を証明済みの仕事を転職先でもしてみせていたのだが、それは、今期待されている仕事ではなかったのだ。

見抜かれたドラッカーは、カーッと頭に血が上ったが、認めざるを得なかった。そしてその日以来、仕事の仕方を変えた。

「新しい仕事で成果をあげるには、何をしなければならないか」

を自問自答するようにしはじめたのだ。

このドラッカーの失敗には教訓が多い。

1.転職したときには必ず「新しい仕事で成果をあげるには、何をしなければならないか」を自問自答せよ

2.転職しなくても、昇進したり配置転換などの組織変更があれば、同じ質問を自らに発せよ
 
3.会社や部門はいつも変化にさらされている。昇進や配転がなくとも、ひとりひとりの仕事ぶりには変化が求められることがある。
 定期的に同じ質問を発せよ

4.会社の人事部門は、社員の配属希望を聞き、それを実現する前にこの質問を社員に発せよ

昨日号で、「これからは誰もが自らをマネジメントしなければならない。自らをもっとも貢献できる場所に置き、成長していかねばならない」という言葉をご紹介した。そして、企業の人事部門は、社員の配属先を決める部門ではなく、社員の配属希望を実現するためのサポート部門に変わるべきだとも申し上げた。

具体例をひとつ紹介しよう。

昨年も一度ご紹介したことがあるが、ある会社で実施している「社員意向調査」というものだ。
毎年1~2回、社長から社員の自宅に郵便がおくられる。Aサイズのアンケート書式が封入されているのだ。それには、次のような質問項目が並んでいる。

・氏名、住所、生年月日、今年の満年齢
・既婚、未婚と家族構成
・入社年月日と在社年数、現職場での経験年数
・現住所から今の職場までの通勤経路と所要時間
・今、あなたが担当している仕事について
  ◇とても満足している ◇満足している ◇普通 ◇不満
  ◇とても不満
  その理由(                       )
・今の職場の人間関係について
  ◇とても良好 ◇良好 ◇普通 ◇不良 ◇とても不良
  その理由(                       )
・あなたの職場の上司は誰ですか(        )
・あなたの上司のリーダーシップについて
  ◇とても適切 ◇適切 ◇普通 ◇不適切 ◇とても不適切
  その理由(                       )
・あなたが今後、社内でやってみたい仕事は
  ◇営業 ◇開発 ◇製造 ◇総務人事 ◇経理 ◇配送 
  ◇その他(                       )
  ◇具体的にはどんな仕事(                )
  その理由(                       )
・あなたが社内でもっとも尊敬するのは誰ですか
  (                           )
  その理由(                       )
・あなたは今後一年以内に会社を辞める予定がありますか
  ◇いいえ ◇はい(  年 月頃) ◇わからない
  その理由(                       )
・どのようなことでも結構です。社長に直接意見や感想があればお書き下さい。

この会社は社員数が百名に満たないので、社長ひとりで毎年これをやっている。
ある程度の規模になれば、それは人事部長がやってもよいだろう。こうして集まった本音情報を人事に反映させていくのだ。一喜一憂せず、継続してリサーチしていく中から変化が読み取れるようにもなる。

張り切っている社員が分かる一方で、人事的な処置が必要だというシグナルもみつかる。

・上司(部下)とうまくいかずに困っている部下(上司)
・今の職場や今の職務に情熱を感じなくなっている社員
・やりたい仕事がありながら、やらせてもらえずに腐っている社員
・家庭の事情や人間関係などから離職を考えている社員

なども早期発見できるのだ。ちょうど、組織の人間ドックのようなものだ。

こうした例も参考に、あなたの会社の人事部門を「社員の成長支援部門」としてサービス内容を考えてみよう。