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社員を表彰するということ

優秀な若い社員に期待するのは結構なことだが、古参のベテランを冷遇してはいけない。そんな会社は、「実は冷たい組織なんだ」と若い社員から思われてしまうだろう。
また、裏方にかくれたおとなしい社員の功績にも光をあてよう。華やかな部門だけが認められるようでは、組織は活性化しない。
言葉以外で感謝を伝える方法があれば、それも真剣に考えてみよう。

過日行われた某社の経営方針発表会。ビジョン発表のあとに行われた社員表彰が印象的だった。

まず勤続5年表彰。表彰状の文面はこうだ。

・・・貴方が、入社以来5年間の厳しい訓練に耐え、日々精進・努力を積み重ねてきた事に敬意を表し、ここに副賞として一週間の有給休暇と、一名分の海外旅行券と金5万円を添え、表彰状を贈ります。
   株式会社○○○○ 代表取締役 △△△△ ・・・

これは社長自らが考えた原稿だ。今年は6名もの社員がこれを受賞した。
中国が大好きな社員1名をのぞいて皆、仕事で密接な関連があるイタリアに行くという。いまどき、勤続5年で外国+有給+金一封だなんて豪勢だ。業績が良いからこれが出来るのではない。業績が悪いときから社長はこうした制度を社員に約束し、ようやく今年以降、該当者が出るようになったということだ。

続いて行われた勤続10年表彰。ほぼ創業時からのメンバーであり、今は立派に役員として活躍する三名が急きょ表彰された。役員表彰は当初の予定になかったことだ。つまり、社長からのサプライズ的演出だったのだが、ここで異変がおきた。賞状を読み上げる社長の様子がおかしい。

・・・厳しい時代背景・企業化するには厳しい職業の中、くぐってきた幾多の困難も3名の役員の献身的努力なくしては我が社の今日はなく、
・・・
ここで社長は天井を見上げてしまった。

「すいません、・・・、ちょっと・・、」と言ったまま数秒間声にならない。目が真っ赤だ。

ようやくの思いで途切れ途切れにこう続けた。

・・・どのように感謝しても感謝しきれるものではない。3名とも勤続10年は遥かに越えているが、一つの節目として此処に、大きな感謝と共に、副賞として有給休暇一週間と、海外旅行券二名分と、金10万円を添えて表彰いたします。一名分は貴方を支えた奥様へのささやかなプレゼントといたします。・・・

予定になかった表彰だ。しかも社長から涙ながらに感謝されたことで受賞した役員も感極まった。流した涙が賞状にポタポタ落ちる。
ふと見ると受賞者の自分の氏名のよこに妻の名前も書いてあるではないか。
「この社長に出逢えて良かった」と幸福感に満たされた瞬間だろう。

その他に、各部門ごとの最優秀賞、新人賞、特別賞が表彰された。
もちろん表彰される本人は名前を呼ばれてビックリする。呼ばれずにガッカリする社員もいたに違いない。だが、賞状の文面を読み上げる社長の表彰理由を聞くと、だれも表彰者に異論をはさめないはずだ。
それほど社長が、現場をみているのだ。

ある人の表彰状の文面はこうだ。

・・・入社二年目のあなたの作品には目を見張るものを感じました。
××の店舗を見てきました。予算もさほど恵まれないなか、多くの色彩を使いこなしながら、いささかも建築的過剰感も感じないどころか、従来の我が社になかった“軽さ”、“楽しさ感”を生み出した功績は大きなものがあります。施主からも大きな賞賛をいただき、次の物件の受注にも繋がりましたことに大きな感謝を表明します。また別の物件の△△の店舗では、逆に予算のある立派な店舗の内装において、ボキャブラリーを増やしすぎることなく、“品格”を見事に作品に表現したことにも、若さに似合わず全体の本質を見極めた力量に、今後の大きな可能性を感じます。とくに、カウンター周りのガラスの内装は見事な出来栄えでした。・・・

すべての賞が、こうした感じで社長の言葉によって表彰理由が語られ、賞状にそれが印刷されている。記念のプレートや記念品のiPodシャッフルもうれしいだろうが、この賞状こそ若いスタッフの宝ものになるはずだ。

みんなの前で誉める、みんなの前で感謝する、思いをこめてそれを行う方法を考えてみよう。