マジック(手品)がちょっとしたブームだ。子供が東急ハンズでトランプマジックを買ってきて披露してくれた。
「さあ、お父さん。ハートのエースは左右どっち?」
「そりゃ、右でしょ」
「残念、右はダイヤの7でした」
「あれ?じゃあ、左かい」
「これまた残念、左でもないよ」
「えっ、ビックリ。左右どちらでもないの!」
「左右どっち?」と聞かれたが、正解はいずれでもないということがある。
私たちの経営でも、間違った二者択一をすると、どちらを選んでも不正解ということがある。例えば、進むべきか引き返すべきかの択一ではなく、立ち止まって様子を見るという他の選択肢もあるのだ。
過日、愛知県のある製造メーカーの経営者とお話しした。この会社は15年ほど前に中国の地方都市に合弁会社を作り、現地パートナーと共同で事業を開始した。15年も前に中国事業とは、ものすごい先見の明に思えるが、日本中で中国の民主化がもてはやされた最初がその頃なのだ。
特に上海の浦東地区の様変わりぶりが連日のように日本に紹介されたもので、第一次(?)中国語ブームもその当時に起きている。
気の毒なことにこの会社、進出3年目にして事業が破綻。結果的には、多大な損失を負って中国から撤退することになった。儲かっていた国内事業にまでしばらく悪影響が出た。
その当時の経営会議に出た意見が、
「中国進出は我社にとって正しかったか。そもそも身分不相応な夢を追いかけたのではなかったか」という反省だった。いや、猛省と言ったほうがよい。
議論した結果、「今後、家訓として次のふたつの行為に手を染めない」として
一.他企業との合弁事業またはそれに類する事業
一.外国企業との直接取引
と肝に銘じたそうだ。
家訓とは今の時代に大げさな響きだが、それほど深刻に反省したのだろう。反省することはよいことだが、「そもそも身分不相応な夢」とまで行くと反省のしすぎかもしれない。
中国進出は○だったか×だったかというならば、×だった。
だが、今後私たちの中国進出は○か×か問いかけると間違った二者択一の罠に入り込む。
どちらでもない△という選択肢もあるということを申し上げたい。タイミング、やり方、人材の有無、法改正などで、刻々と相手もこっちも状況が変わっているということを忘れてはならないのだ。