昨夜、劇団四季のケース・ディスカッションに参加した。主催は一橋大学イノベーション研究センターと東洋経済新報社で、講師は一橋大学院国際企業戦略研究科の石倉洋子教授。
季刊誌『一橋ビジネスレビュー』2004年秋号に掲載された、同教授の四季に関するレポートを読み、後述する三つの質問の答えを持ち寄るのが参加者に要求されていた。
文芸社の吉田さんからこのイベントを知らされ、即座に申し込んだおかげで、募集人員50名の中にもぐりこむことができた。大学やビジネス専門スクールなどで多用されるケース・ディスカッションなるものに興味があったのと、純粋に劇団四季という会社に好奇心があったから楽しみにしていた。
さすが教授、期待に応えてくれる内容だった。今日は、劇団四季を分析した結果報告ではなく、ケース・ディスカッションというものについて私なりに気づいたことをお届けしたい。
まず講師から、ウォーミングアップのための質問が出る。
「あなたは劇団四季の演劇をみたことがありますか。それはなぜですか?」
ある、ないのいずれかで挙手をすることになる。挙手できない人はいないので、最初の質問から全員参加になる。
何名かが当てられ、四季に対する率直なイメージを発表する。この段階では、四季に対して好意的な意見が出ても否定的な意見が出ても構わない。大切なのは、参加することだ。
好意的な意見が多かったものの、一部では、キャッツやライオンキングなど有名すぎて今さら観たいという気になれないとか、芸術性が感じられないとか、気色悪いというようなひどくネガティブな意見も出た。
私は好意的な発言をしたが、まさか会場後方に二人の四季スタッフが参加しているとは最後に知らされるまでは誰も知らなかったはずだ。
集まっている人たちのプロフィールはお互いに分からないが、30~40才の論客が多い。8割が男性だ。
ウォーミングアップ質問の二つめは、「あなたが劇団四季からオファーがあれば、この会社の経営陣に加わりたいと思いますか?それはなぜですか?」という質問だ。
これに関しても、7割程度が肯定的、3割程度が否定的だった。その理由もたくさんの意見が出たが、講師はすべての参加者に発言を求め、出た意見を丹念に扱っていくので場内は一体感のような雰囲気が生まれ始める。適度にジョークも織り交ぜて、リラックスしつつ、いよいよディスカッションの本題に入っていくような意見が出始める。
さて、参加者が考えてくる三つの質問は以下の通り。これが今日の本題でもある。
1.劇団四季は、不確定要素が大きく「水物」といわれる演劇業界において、一貫して優れた収益性を継続しています。その理由は何だと思いますか。
2.日本の演劇業界は、ニューヨークのブロードウェイやロンドンのウエストエンドとはだいぶ状況が違います。そうした中で、劇団四季はどのように戦略を展開してきたのでしょうか。長期的目標、顧客、事業の展開方法、その進化を中心に考えて下さい。
3.あなたが劇団四季の社長だったら、2004年時点で同社の課題をどう定義し、解決していきますか。具体的に考えてください。
ディスカッションもこの順で進められた。
議論の中味をお伝えするのは本題ではないので省くが、ご興味がある方は、季刊誌『一橋ビジネスレビュー』2004年秋号を読まれると良い。
最後に、ケース・ディスカッションに参加する姿勢について。
普通のセミナーや講演会とは異なり、能動的に参加することが大切だ。
だから、一歩引いた位置から講師や他の聴衆を観察しようなどと思ってはつまらない。
自分がケースの主人公(この場合は四季の経営陣)になりかわって考えることと、自分の本業に置き換えて何が言えるかも考えることによってケース・ディスカッションはきわめて有益なものになると石倉教授が締めくくった。
ケース・ディスカッションというものをどこかの非凡会かセミナーでやってみたいと思った。
だが、自分の意見を主張する講演会やセミナーとは違って臨機応変の運営が求められるので、講師の本当の実力が問われる手法なのかもしれない。ディスカッションの主題について深く研究しておくことは勿論のこと。それ以外にもファシリテーション(進行役)能力も問われる。全員が参加し、発言するような雰囲気を作る。意見は各人各様であっても、まずは、ともに考えて意見を述べ合うという状況作りなども大切だ。