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続・続・広島のスパイダーマン

※一昨日、昨日と続いた、広島の福原社長とカンドウコーポレーションの物語も今日がラスト。例によって、文脈上あえて福原社長の敬称を省かせていただきました。


「ウソをつかない」というのがカンドウコーポレーションの福原が決めたたった一つのルールだ。
メンバー同士が心をそろえることに意味があるのであって、ルールで形だけを揃えてみても意味がない、という考えだ。
だが、そんな福原がスタッフに対して徹底的にやり方を教え込むことがある。それが、お茶やコーヒーの入れ方だという。

「お茶が一番おいしい会社と言われたい」わざわざ各地からおいしい茶葉を取り寄せ、茶器にもこだわり、最高の入れ方で提供する。
たしかに、出されたお茶やコーヒーがうまいと、心からホッとする。
「この会社はなにか違う」というサプライズ(驚き)効果があるのだ。

カンドウコーポレーションが目指す“感動”は、サプライズ(驚き)でもあるのだ。お茶やコーヒーなど、もてなしの心でお客にサプライズしてもらおうという福原の気持ちだ。
しかもその感動は、お客のためだけに向けられるのではない。スタッフ(社員)やブレーンさん(外注などの協力会社)にもサプライズしてもらいたいという思いが福原にはある。
一例として、同社が伝統的にやっていることがある。それが“カンドウ流バースデー・セレブレイト”つまり、社員の誕生祝いだ。

ある年の話しをしよう。

女性スタッフの誕生日に、皆で手作りチーズケーキをプレゼントしようと決めた。もちろん本人には内緒で、かなり前からそのプロジェクトが隠密に発足する。あえて料理本を一切見ず、自分たちの想像でチーズケーキを作っていく。

「材料はなんだろう?」
「たまごはぜったい必要だよなぁ」
「チーズはどうするんだろう」
「甘味は砂糖だけ?」
・・・etc.

侃々諤々(かんかんがくがく)、チーズケーキをレシピなしで作るのは素人にとっていばらの道。失敗の連続だ。真っ黒こげになったり、カチカチになったり・・・。

そんな苦労の場面をなんとビデオカメラで撮影し続ける。カベにぶちあたってどうにもならなくなり、皆が挫折して困り果てるすがたはテレビのドキュメント番組をみているようだ。

「だめだ、やっぱり料理本で勉強しよう」と本屋に走り、本を選ぶ場面もビデオで撮る。つまり本を買う人と撮影する人の二人で本屋に走っているわけだ。

そしてとうとう、「うまいやん、これ」という味が出る。それまで誕生日プロジェクトの格闘は続く。そうしたメイキングビデオを編集し、一本のDVDソフトに仕上げるのも大仕事だ。この最終段階では、二日間にわたって編集で徹夜するスタッフも出た。
完成した“限定一本のDVD”は、パッケージまで本格的だ。市販のソフトと見間違えるほど、良くできている。

そしていよいよ誕生日がやってきた。仕事を終え、頃合いを見てスタッフ全員が彼女の机にまわりに集まる。
ハッピーバースデイの合唱のあと、パソコンで皆がDVDを見る。
DVDをプレゼントされた本人も、最初は照れ笑いの表情だったものが、大笑いしたり半泣きしたりするうちに、やがて涙をぬぐいだす。

いよいよエンディング。DVDのラストシーンは、オーブンの「チーン」という音で終わる。
ちょうどその音に合わせて、給湯室でもレンジが音を出す。
「チーン!」

スタッフが焼きたての手作りチーズケーキを彼女の前に運ぶ。彼女にとってはあり得ないほどのサプライズだ。そこでもう一度、全員で「ハッピーバースデイ」を合唱し、食す。もう、言葉がでない。

「やって良かった」と思う瞬間であり、「この仲間とずっといたい」と思う瞬間だ。

感動して涙を流すのは、裏側の苦労が連想できたときだ。もしメイキングビデオがなくて、手作りチーズケーキだけを出されたとしたらどうだろう。
「わぁ、おいしい!ありがとう。大変だったでしょう。」
で終わったかもしれない。彼女が元パテシエでケーキ作りの大変さを良く知っているとはいえ、このメイキングビデオを見ることでサプライズがあり、感動にいたるのだ。祝ってもらった本人も、祝った仲間も一生忘れられない誕生日だ。

感動することやさせること、サプライズすることやさせることが日常的に行われている会社は、当然お客にもそれを提供するだろう。

福原は語る。
「仕事の合間をぬって、そんなことに熱中して楽しんでいるスタッフをみて、僕もうれしい。いや、僕が一番楽しんでいるかもしれない。」

こうしたことも、アイデアを生み出す力や、お客の期待を上回ることの下地になっているに違いない。

最後に、福原に将来の夢を聞くと、
「私の器は10人まででしょう。それ以上は、スタッフが経営者になってくれて、私は彼らの会社の一役員として関わりをもっていけれればありがたい」と控えめだ。こうした無心さも福原の人気の秘密かもしれない。

※カンドウコーポレーション http://www.can-do.co.jp/