※都合上、あえて文中に登場する福原社長の敬称を省かせていただきました。
21世紀になって間もないある年の瀬、
預金口座にわずかに残った10万円の剰余金を見て、社長の福原は内心で、「こんなに少ない儲けでスタッフのみんなに申し訳ない」とつぶやいていた。社員は毎日遅くまで働いている、でも儲からない。何がいけないんだろうか、と考える間もないほど毎日が忙しく過ぎ去っていった。
だが、無い袖は振れない。結局、当時の社員3人にその10万円を分配した。一人3.3万円、それが残念ながらその年末の賞与だった。
もともと福原率いる株式会社カンドウコーポレーションでは、会社の数字はすべて公開してきた。従って社員も、賞与の少なさを充分覚悟していたようだ。
3.3万円を受け取った一人の社員が言った。
「社長、三人で分けるなんてやめて下さい。社長も入れて四人で分けましょう」
その年の瀬、四人が2.5万円の賞与を受け取った。
家路につく福原は、胸中で固く誓った。
「いつかみんなの賞与で札束を立たせてやりたい。それが僕の夢だ。それだけじゃない。これを機会に、我々の業界で一番給料が良い会社にしよう」
カンドウコーポレーションでは、賞与はもちろんのこと、毎月の給与も現金手渡しだ。それは今も変わらぬ伝統である。しかも現金は、袋には入れず、裸の札束を輪ゴムでしばり、それを福原の「ありがとう」の言葉を添えて手渡す。
福原が誓った“賞与で札束を立たす”には一人百万円の現金が必要だった・・・。
そして、
あれからわずか二年、福原が社員を集めてこう語る日が来た。
「みんな、ありがとう!僕の夢がひとつかなった。百万円のボーナスを今日みんなに渡せる。あえて札束に帯をしたままで用意した。もちろん一人に一束ある。ぜひ今日は、このまま持って帰って奥さんや親にも見せてあげてほしい。そして安心させてあげてくれ。」
その時、社員はうれしさを通り越して、福原という男にビックリした。
「僕たちのために札束を立てることを本気で考えていたんだ」と。
世間では、「ボーナス月が怖い」という社長が多い中、福原の会社では役員の三人が賞与月になるとワクワクする。
その気持ちは、「みんなのおかげで今回もボーナスが出せそうだ。皆にボーナスを払えることが僕たち役員にとってのボーナスなんだ」という思いだという。“For the staff”というモットーの面目躍如である。
株式会社カンドウコーポレーション、福原勘二社長43才。広告デザインとWEB制作が本業だ。13年前の30才で会社設立。広島本社、東京渋谷にもリエゾンオフィスを置く。
ホームページや会社案内、営業ツールなどを制作する会社だが、福原の作品はこうした仕事の制作物だけではない。スタッフや会社そのものが福原の傑作品であり、モナリザを描いたダビンチのように終生完成しない作品なのかもしれない。
カンドウコーポレーションという会社がどの程度の“作品”かは、オフィスを訪れるとわかる。福原いわく、「お客さんが事務所に来ると、全員が立ち上がる。先を争ってお出迎えの体制になる」という。
しかもそれは、決められたルールだからではなく、自然にそうなるというのだ。
福原が創業したてのころ、一件のアポイントを取るのにどれだけ苦労したことか。だが今では幸いなことに、当時なかなか会えなかったお客様ですら出向いて下さることが多いという。
そのことが福原にとっては文字通り「有難い」のだ。その気持ちをことあるごとに皆に話すそうだ。そうした福原の熱い思いに共感してくれる社員だけが揃っている。福原いわく、「心をそろえればルールはいらない。」
カンドウコーポレーションにあるルールはただ一つ、「ウソをつかない」だけという。
私が、「本当にルールとして教えることはそれだけ?」と聞くと、しばらく考えたあと、茶目っ気たっぷりに「そう言えば、まだありました」
その答えがふるっていた。
<明日に続く>
※カンドウコーポレーション http://www.can-do.co.jp/