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広島のスパイダーマン

広島にスパイダーマンがいた。

スーパーマンやウルトラマンのような無敵ヒーローではなく、かなり弱点もあり、身近で自分もなれそうな英雄がスパイダーマンなのだ。
広島のカンドウコーポレーションの福原社長の姿に私はスパイダーマンを見た。

「我社の最高の作品は、社員や会社そのもの」、と言いきれる社長って日本に何人いるだろう?百人にひとりはおろか、千人に一人もいないのではないだろうか。だが、福原さんの自慢は社員や会社なのだ。

まず、氏の話に入る前に、福原さんの講演を聴いていて感じた一般論を少しお話ししておこう。

私の結論から言えば、「中小企業の社長は、どんどん講演を引き受けるべきだ」となる。
逆にいえば、講演するようなネタが何もないような経営をやっていてはいけないということでもある。

そうした意味で、9月22日の廣島非凡会における福原社長の講演は、企業経営者の講演としてひとつの理想型のように思えるのだ。今春の盛岡非凡会における南部美人の久慈社長も同様だ。
彼らは自社製品を売り込んでいるのではない。「うちはこういう会社なんです」というメッセージを力強く発信し、それが聞く者の心をつかんでいるのだ。

むかしから、「社長が目立ちすぎる会社は良くない」というが、マスコミや講演に出ることに快感を感じ、本来の経営業務をおろそかにすることが良くないのである。表に出ることそのものは、きわめて有益である。問題は、目的にかなった表への露出かどうか、という一点だ。

福原社長の講演は、

・体験談中心の講演なので説教くささがなく、生々しさと迫力がある。
・「For the staff」(社員のための会社)という信念や、最近まで賞与を満足に払えなかった話しなど、すごいヒーローではなくスパイダーマン的身近なヒー ローなのだ。だからこそ、「私にも出来そう」という勇気がわく。
・最終的には、カンドウコーポレーションという会社に関心をもち、ファンになり、できれば何かの発注をするか、取り引きをしたいと思うようになる。
・そうして出会ったお客さんを社員ともども大切にし、期待を裏切らない。いや、良い意味で裏切る。

これが、トップ(社長)セールスの“福原スタイル”なのだ。また、社長不在でも会社が充分に回していける幹部や社員がいるからこそ安心して外へ出られるわけでもある。

さて、カンドウコーポレーションの福原社長の話をご紹介したいが紙面が少なくなった。今日は、数年前の私の体験をお話しし、そこから福原さんのお話しに明日つなげる。

数年前のこと、ある雑貨卸会社の桐野さん(仮名)にはじめて会うために会社訪問した。自動ドアが開き、受付の女性が立ち上がって「武沢さまでいらっしゃいますね」と笑顔を向けられた。

「ほぉ、たいしたものだなぁ」と内心感激していると、桐野さんが小走りでやってきた。

「はじめまして。私が桐野でございます」

すべてにおいて一生懸命で気持ちがいい。

ところがそのあとがいけなかった。「やりすぎ」なのだ。私を応接室に案内するためにオフィス内を通り過ぎる。その瞬間に、桐野さんが室内に向かって大声で、「武沢さまがお越しで~す」と叫ぶ。
すると、全員仕事の手を止めて立ち上がり、「いらっしゃいませぇ」と応える。思わず私は気をつけの姿勢になり、お辞儀する。

ミーティングが終わって帰りも同様、「武沢さまのお帰りで~す!」「ありがとうございました」となる。

ここが寿司屋ならば、この元気さだけでネタが新鮮に思えるのだろうが・・・。過ぎたるは及ばざるが如しというが、不自然なまでに声や動作を揃えると、相手を威圧してしまう。

広島のカンドウコーポレーションさんも立ち上がるらしい。だが、どうやらそれはルールでも決まりでもなく、社員の皆が立ち上がりたいからそうしているという。

<明日に続く>