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理念の浸透

経営に関する理念・方針・行動計画を串刺しでまとめたものを経営指針という。経営理念と経営方針と経営計画がそれぞれリンクしていなければならないのだ。
昨日・一昨日の連休を利用して、その「経営指針」作りに関する合宿研修を名古屋市内で実施した。集まった10名の経営者は、過去の決算書やパソコン、社内重要資料などをもち込んで缶詰めになって経営指針を作る。

その作業の合間をぬって、個別面談を一人40分程度の時間をかけて行った。
H社長との会話。

H:「武沢さん、この2~3年かけて格闘してきた経営理念が、今日ようやく固まりました。何だかとてもすっきりした感じです」
武:「それは良かったですね。社長ご自身が理念に確信をもつことが一番大切ですから、何よりのことです」
H:「あとは、その社内浸透を考えていけば良いのですね」
武:「そうですね。社内浸透についてはどのようにお考えですか?」
H:「はい、それは・・・」

H社長は次のような話を聞かせてくれた。

・・・
我社は金融関連サービス事業を展開している。生命保険や損害保険を販売するだけでなく、投資信託や証券外務など金融分野の規制緩和にあわせて従来にない発想で商品のパッケージングを考え、顧客と100年のお付き合いができるようなビジネス形態づくりを考えてきた。
それを端的に表現するうえで、経営理念を成文化しようと思いたったのが今から3年ほど前。
その頃つくった経営理念は、自分なりに出来映えの良いものだと思ってきた。だが、3年たった今年のある日、数人の社員に向かって何気なく「うちの理念を言ってみて」とお願いしたところ、誰一人スラスラと言えなかった。「これはおかしい」と思った。
だって、会議があるときには、あれだけみんなで理念唱和していながら、私の前では言えない。それは、会議室にある理念額縁を見ないと言えないということだ。それだけ長文で覚えにくい理念だった。この事実にショックを受け、また改めて理念を作り直そうと思ってこの合宿に参加した。今度の理念は一層磨き上げられて、シンプルなものになったと思っている。
・・・

なるほど、それは素晴らしい体験をされたものだ。複雑で長文な理念では、矛先が鈍る。そうした意味からHさんのように磨き上げ、シンプルにしようとすることは正しい。そうすれば、朝礼や会議の時などでも全員が理念をそらんじることができるからだ。

そこで、私はH社長に質問してみた。

武:「Hさん、みんなが理念をそらんじることができるようになることはとても大切です。でもそれだけで理念が社内に浸透したと言えるでしょうか?」
H :「いや、それだけではダメでしょうね。実際に行動されなければならない」
武:「なるほど、理念を成文化したあとは、それを行動に移すための取り組みが必要だ、ということですね」
H:「もちろんです。武沢さんのメルマガにも『知行合一』という言葉が紹介されていましたが、『知る』ことと『行う』ことは同じでなければなりません」
武:「具体的にお尋ねしますが、Hさんは何をしますか?」
H:「う~ん、まずは唱和する。そのあとは、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
武:「唱和した後、どうします?」
H:「う~ん、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

2分ほどたってもH社長の口が開かない。それどころか、苦悩の表情がみえはじめた。

武:「では質問を変えましょう。Hさんがご存知の会社かお店で、経営者の理念や方針が現場の先端まで行き渡っている所はどこでしょう?」
H:「東京ディズニーランドですね。いつ行っても新しい発見とか感動がある。創業者のDNAが遠く離れた日本で働くアルバイターにまで浸透しているのは奇跡のようでもある」
武:「なるほど。では、東京ディズニーランドにはどのような理念や方針があるとお思いですか?」
H:「実際に確認したわけではありませんが、『夢と魔法の王国』とか『お客の感動』とかの理念があると思います」
武:「実際に東京ディズニーランドへ行かれて、その理念が浸透しているとお感じになったのはなぜですか?」
H:「チケットブースでチケットを買う時から始まって、売店、アトラクション、清掃スタッフ、場内のガイドに至るまですべてのスタッフが一貫して『夢と魔法の王国』、『お客の感動』につながるような仕事ぶりをしていました。私のような年になると、ミッキーやミニーに感動するというよりは、スタッフの働きにより感動する」
武:「では、最後の質問ですが、東京ディズニーランドの経営者やマネジャーたちは、現場で働くスタッフに対してどのような理念浸透策をとったとお考えですか?」
H:「え?」

<明日に続くが、あなたもお考えいただきたい>