未分類

社長の仕事

会社のなかで、“社長がいてもいなくても同じ”という状態は、決して誇らしいことではない、というお話しをしたい。

あるとき講演にて、「ある年度は大もうけし、翌年は大赤字というような会社では、経営がきちんとなされていない可能性がある。未来に対する不確定さを取り除いていこう。もともと会社は、持続的・安定的な成長をとげる使命をおびている。従って、そのための種まきを社内外に向かって耐えずしていかねばならない。今期の業績は今後の新しい活動にかかっている、という状態をなるべく少なくしよう。それでは遅すぎるからだ。また、社長みずからが毎日のように今期の売上確保に狂奔するのもそろそろ終わりにしよう・・・」

というようなお話しをした。

すると、懇親会の席で50才くらいの社長がとなりに来て、こんな話を聞かせてくれた。

「武沢さん、うちの会社は20人くらいの規模で住宅建材の卸売業をやっています。おかげさまで権限委譲がすすんで、私が社内にいなくてもまったく問題は起きなくなりました。いや、むしろいないほうがみんな伸び伸びとやっているようです。『社長元気で留守がいい』なんて社員からも言われていますよ。アッハッハッハ・・・」

「ハハ、それは結構なことですね」

「最近ではですよ、武沢さん、なんと社内から携帯電話すらかかってこなくなりましたよ。数年前は一日で携帯のバッテリーがなくなるくらいかかってきたのが、今ではほとんどゼロですよ。すごいですよね。最近思うのですが、社長の究極的な仕事とは、自分が要らない状態を作ることじゃないでしょうか。」

「エッ、社長を要らなくする?」

あなたはこの意見に対して、どうお考えになるだろう。

彼のここまでの格闘には敬意を払いつつ、彼の意見は間違っていると言わねばならない。社員に権限委譲をすすめ、日常業務から社長を解放することは素晴らしいことだ。だが、社長が要らない状態を作るのが社長の仕事だなんてとんでもない話だ。もしそうなら、役員報酬は返上せねばならない。

社長は、他の社員がやらない・やれない責任を受けもつ。それは、“適切な仕事が適切に行われているか”どうかをチェックし、必要な変化・変更を決定する仕事である。その結果、業績をあげつづけるのプロの経営者だ。そのためにやるべき仕事はあまりに多い。自分を要らなくするのは、日常業務に対してであって、会社に対してではない。

どんなに小さな事業規模の会社でも、大会社を管理するのと同じような姿勢でマネジメントする必要がある。まだ小さいからいいや、ひとりで全部わかっているからいいや、という甘えがあると、マネジメント不在の会社になる。その未来は、停滞と混沌だ。

一方、小さい会社であるにもかかわらず、しっかりと真剣にマネジメントされている会社は、将来売上や利益の金額のケタが幾つ増えても耐えることができる社内システムをもっている。それをするのが社長の仕事だ。