先週お届けした「信長の経営」のなかで、領土の替わりに茶器を与えることについてふれた。
戦国大名が家臣に与えることができる領土は有限である。いくら分捕り放題とは言っても、土地には限りがあるのだ。そこで信長は、茶器に目を付けた。茶器を与えられるということは単なる骨董趣味の話ではなく、茶の湯が許されたことを意味し、当時の社会では大変なステータスであったのだ。そんなお話しをしたところ、次のようなご質問メールが届いた。
・・・信長の経営について興味深く拝読しましたが、「茶器」について質問があります。ズバリ、現代の経営者にとって茶器に相当するものは何でしょうか?
要するにお金以外の方法で社員のガンバリに報いる方法をたくさん知っておきたいのですが具体的にご教示願えるとありがたい。・・・
というものだった。
果たして当時の茶器に相当するステータスを今も与えられるかどうかは疑問ながら、いろいろな方法はある。
要するに恩賞は何か、ということであり、どのように部下をモティベートするかというテーマだ。
この春、アメリカのグーグル社視察から戻られた百式の田口さんが興味深いことを語ってくれた。おおむね次のような内容だったと記憶している。
・・・
グーグル社で働く社員にとっては、これ以上ないほど快適な職場環境が与えられている。これでもか、という位、仕事に専念できるようになっていて、それ以外のわずらわしいことは全部会社がまかなってあげようという姿勢に思える。
例えば、いつでも無料で利用できるフルーツバーやドリンクバー。社員の食べ物や飲み物が充実していて無料なのだ。また、社員専用のラウンドリーに預ければ、シャツでもジャケットでも無料でクリーニングしてくれる。子供を預ける託児所まである。
・・・
何ともうらやましい話だ。
これらはほんの一例にすぎないそうだが、要するに働きやすさに対する企業側のひとつのメッセージだ。これらも現代版“茶器”と言えなくもない。
外資系企業にはこのような充実した福利厚生制度の企業が多く、先日訪れた中国のアリババ社でも、社員はわずか1元(15円)を払うだけでコーラやスナック菓子、カップ麺などを冷蔵庫からテイクアウトできる。
さて、社員の働きやすさ、というテーマをとことん追求していくと、「一社マルチ制度」になると私は考えている。
「一社マルチ制度」とは、1980年代に?小平が打ち出した「一国二制度」に掛けたことばで、私が命名したものだ。まず、「一国二制度」とは、ひとつの国家の中に、社会主義と資本主義の二制度を容認するもので、台湾との平和的統一をめざしてできた80年代の言葉。
国家ですら二制度が成り立つならば、民間企業が「一社一制度」に固執するのはおかしい。特に、給与や待遇など人事に関する制度は、「一社二制度」どころか、「一社マルチ制度」が今後の常識になるだろう。
そうした観点で、先月(6月22日)日本経済新聞が発表した2004年「働きやすい会社」ランキングは興味深かった。まず、ランキング上位10社をご紹介しておこう。
第一位:日本IBM
第二位:松下電器産業
第三位:東芝
第四位:NEC
第五位:東京電力
第六位:富士ゼロックス
第七位:東京ガス
第八位:損害保険ジャパン
第九位:大阪ガス
第十位:中部電力
こうして見ると、電気メーカーに生活インフラ企業が大半を占めている。
百式 http://www.100shiki.com
<つづく>