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奪われたら取り返す

本が売れないそうだ。

私は一日おきに本屋へ行くが、店頭をみている限りはそうした出版不況に気づかない。むしろ活況のようにみえる。だが、出版物(書籍・雑誌)の推定販売額は四年連続のマイナスで、倒産する出版社、閉店する書店が続出しているそうだ。本が売れないから、次々に新刊を出す自転車操業である。

「だれが『本』を殺すのか」(佐野眞一著プレジデント社)によれば、出版点数は急増し、1960年の新刊書籍の発行点数は約11,000点だったが、2000年には約6倍の67,000点。毎日180点以上も新刊が出ている、とある。まさしく本の洪水で、その4割は返本されていく。

同書では、出版業界や出版人のあり方について論及しているが、そうした業界体質の問題だけではないように思う。要するに、本や雑誌を読む時間が、他の何かに奪われているだけなのではないだろうか。

「少年ジャンプ」は、ピークの1995年に650万部を売っていたが、今では400万部になっている。このシェアを奪ったのは「少年マガジン」でも「コロコロコミック」でもない。ゲームボーイや携帯電話に奪われたとみるべきだ。つまり、おこづかいと時間が他のなにかに奪われたのである。
出版業界の方からメールを頂戴したことがある。「良い本が売れず、良くない本が売れる」という現状を非常に苦慮しておられた。

だが、こうしたことは出版業界だけの問題ではない。音楽CDにもゲームソフトにも同じような現象が起きている。調べればもっとたくさんありそうだ。テレビや雑誌などの売れ筋ランキングを見て、消費者は売れているものを買う。その結果、本も音楽もゲームも「一強他弱」に近い現象がおきる。情報化社会は、ますますそうした現象に拍車をかけるだろう。
業界の中にいるとかえって業界全体のことがわからない。業界人の意識を超越してみてはじめて顧客の行動パターンがみえてくる。

コーヒーの卸し販売会社の社長が言っておられた。

「武沢さん、喫茶店は同業他店が近所に出店してくると妨害したがるが、実際に彼らがやられているのは、同業店ではない。マクドナルドや牛丼の吉野家にやられているのですよ。」

その通りだ。

一般論はどうでもよい。

奪われたら取り返す、それだけのことだ。

喫茶店がマクドナルドを閉店に追いやることがあって不思議でない。魅力的な本が子供たちを引きつけ、ゲームソフトを追いやることがあっても不思議ではない。消費者の流れを作るのは経営者だ。