人事労務組織

次世代リーダー育成のカリキュラム

民主党嫌いのある社長が、かつての野田政権を批判し、こんな事を言われた。

「松下政経塾の 1期生卒業者で総理大臣になった人物があの程度の政治しか出来なかった。長州の松下村塾にできて、松下政経塾に人材育成が出来ない本当の理由がわかりますか?」

「さあ?」と私が答えると、「それは、幼時教育の欠如です」と社長。

「幕末の寺小屋では子どもたちに四書五経をベースにした全人格教育が行われた。その上で国家の危機意識を植えつけ、行動へと駆りたてた。だから明治維新の原動力になる若者が短期間で育ったわけだが、松下政経塾にはそうした無垢(むく)な子どもを対象とせず、社会人になった人間を育てようとしている。そこに人間教育の限界がある」と社長。

ご意見には一理ある。「教育は早いほど良い」という意見には私も賛成する。しかし、だからといって大人を対象とした次世代のリーダー育成のための松下政経塾を批判することには賛成しかねる。

おそらく社長は、松下政経塾で説いている国家観や政治観なども含めて松下政経塾批判をされているのだろう。私は松下政経塾で教えている教育の内容までは関知しないまでも、これだけのカリキュラムでもって次世代リーダーを育成する私塾をほかに知らない。それだけでも賞賛に値すると思うのだ。

「教育の内容が偏っている」「古い国家観、政治観を教えている」といった批判があるのは知っている。それは教育内容の問題なので、別の議論だ。ここでは教育方法とカリキュラムについて考えたい。おそらく創設者の松下幸之助氏が心血を注いでつくったカリキュラムであり、それは、企業内の人材育成においても大いに参考にすべきだと思う。

松下政経塾の四年間の全寮制教育課程のうち、最初の基礎課程(集合研修)で学ぶことは次のようになっている。
以下、松下政経塾ホームページより一部抜粋。

<1年目~ 2年目>
同期全員で切磋琢磨しながら、素志を固める
建塾当時から継承された研修構成に基づきつつ、同期全員で研修内容を組み立てて実行します。
国家百年の大計とは如何にあるべきか、実践者になるために必要なものは何か。
全寮制のもとで互いに切磋琢磨しながら自問自答を繰り返し、素志を固めていきます。

・基本理念の探求
【塾主研究】 松下幸之助塾主の基本理念、国家ビジョンを学ぶ
【人間観】 「人間とは何か」を問い続け、人間理解を深める
【歴史観】 近現代史、政治史を中心に国家や指導者のあり方を学ぶ
【国家観】 哲学、政治思想を中心に政治や国家のあり方を学ぶ

・塾主研究会で関西を訪問
国家ビジョン 重要政策課題の研究

【共同研究】「2030年の日本」をテーマに 1年をかけて探求する
【外交安全保障】東アジア情勢を中心に日本を取り巻く諸情勢を学ぶ
【経済財政】マクロから経済政策、財務諸表分析まで幅広く学ぶ
【現代政治論】政治の第一線にいる塾出身政治家から現場課題を聞く
【研究会】 外交、教育、社会保障、地域経営を中心に研究する

・研究会にてディスカッション
現地現場研修
【農林業・漁業】現場で汗をかき、一次産業の課題を把握する
【製造・販売】工場、販売店で実務を通じて、経営の要諦を探る
【被災地支援】東北での復興のお手伝いを通じ、復興の実情を知る
【政治実践研修】政治の現場に身を置き、身をもって政治を知る

・農林業実習で一次産業を体感
日本の伝統精神 国際的視野の涵養
【茶道・書道・剣道】開塾以来の伝統的研修により日本を理解する
【古典・坐禅・神道】古典を紐解き、古今東西の衆知を集める
【国際コミュニケーション】各国大使館等との交流で国際的視野を身につける
【早朝研修】毎朝の掃除、ジョギングにより心身を鍛錬する
【100km行軍】開塾以来の伝統行事で、100kmを 24時間以内で完歩する
【素志研修】自主的研究、実践により、自らの志を練磨する
【合同合宿】2か月毎の全塾生による合宿で切磋琢磨する
【役員・塾員講座】各界の有識者や塾卒業生による講話

・一日の研修スケジュール
松下政経塾の一日は、体操・掃除・ジョギングを行う早朝研修から始まります。朝食後に朝会に臨み、一日の活動を確認 して、夕方まで研修を行います。なお、夕食後の時間は、各自の研究・実践活動に充てられています。

三年目、四年目の【実践課程】として個別研修が行われる。

★松下政経塾のカリキュラム
http://www.mskj.or.jp/about/curriculum.html

★松下政経塾の卒業生 http://www.mskj.or.jp/almuni/index.html

次世代の経営者や幹部育成のヒントがこのカリキュラムにある。