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頭を悪くしよう

三島由紀夫は言う。

「人間の行動は、予測のつくことばかりに向かってばかり発揮されるものではない。『武士道は死にもの狂いなり』というように、理性主義や理知主義の最大の欠点は、危険に対して身を挺しないことである」


何かの意思決定をするとき、誰しもが正確な見通しをほしがる。そのための資料やデータ、事例などを集めようとする。だが、それでも充分な予測はできない。


最終的には勇気をふりしぼって危険に身を挺すべきときがある。また、損得よりもさきに善悪を優先して考え、実行すべきときもある。つまり私たちは、みずからの理性主義・理知主義を時にはふりほどく必要があるのだ。


それに関連して、昭和初期の物理学者・寺田寅彦は次のように述べている。

「科学者は、たしかに頭が良くなくてはならない。が、そのいっぽうで、科学者は頭が悪くなくてはならない、というのも真実である。頭のいい人とは、いわば足の速い旅人のようなものだ。頭の力を過信するあまり、物事を簡単に見抜こうとしてしまうのだ。たとえば、富士山が何であるかは、山頂に達するプロセスを一歩一歩踏みしめてみないとわからない。だが、頭のいい人は、すそ野から山頂を眺めただけで、富士山の全体をとらえたと過信する」