ある酒席で、中国ビジネスに関心をよせている経営者Aさんと隣り合わせになった。彼も「がんばれ社長!」読者であり、初対面とは思えないほど私のことをご存知だった。
A:「武沢さん、とうとう中国進出を果たされたそうですね。ひとまず、おめでとうございます。メルマガを読む限り、具体的な事業計画を持たずに、まずオフィスだけを先に契約したと書いてありましたが、あれは本当ですか?実際のところは、なにか仕事のオファーでも来ているのでしょ?」
武:「いや、そんなの全くありません」
A:「そうなんですか。ふ~む。実は、私も武沢さんと同じく吉田松陰を尊敬しています。特に彼の黒船渡来事件が好きなんです。三浦半島にやってきたペリー率いる黒船四隻に対し、世間ははちのすをつついたような大騒ぎをした。だが、松陰のように、みずから黒船まで漁船を漕いで渡り、『私をアメリカに連れて行け』と交渉した人物は他にいない。近代国家というもをこの目で見てみようという彼の強烈な好奇心なんでしょうね。」
武:「私も松陰さんのそうした純粋さが大好きですよ」
A:「武沢さん、私は多くの中小企業にとって中国は黒船だと思います。しかもこの現代の黒船は、時間の経過とともにますます大群を率いてやってくるようなやっかいな黒船なんです。」
武:「へぇ、おもしろい。でも、中国はやっかいな存在ではなく、味方にすべき黒船でしょ。」
A:「そこそこ!そこです、問題は。我々の仲間の多くも、中国に対して戦々恐々とするのでなく、中国の発展をビジネスチャンスにしようと思っています。 ところが実際には、セミナーや本、視察研修などの勉強ばかりしていて、実際は何も行動していない経営者が多い」
武:「それは私も同感です」
A:「私の仲間が二年前に主催した中国視察ツアーは、40名ほどが参加しました。ところがいまだに誰一人として何もしていないという現実がある」
武:「それは残念なことですが、やむを得ないでしょ。すべての会社が中国と取り引きするわけではないのですから、その40名の方々も今は取り引きしないと お決めになったのでしょう」
A:「いや、そうではない。40名のうち何割かの人はすごく興味を持ったのです。『中国と取り引きしてみたい』とハッキリ宣言した人も何人かいる。でも 何もしていない。そこで、武沢さんにお尋ねしたい。あなたが中国へ進出して仕事をしようと思い、オフィスまでつくったその決断は、何がポイント だったのか?」
武:「ポイントですか・・・、そうですねぇ、『勘』がはたらいたとしかいえませんね。抽象的で申し訳ないのですが」
A:「カン、ですか」
こんな会話を交わしたのち、帰路のタクシーでその内容を反すうしてみた。
未知のことに挑むとき、事前に予測がつかないことが多い。中国ビジネスはその最たるもののひとつだろう。
どうやらこれは、
孫子の教え、「己を知り、敵を知れば百戦危うからず」にあるように、中国のことを知る前に、まずは己のことを知る必要があるようだ。
・私は中国が好きか
・私は中国人が好きか
・私は中国でやってゆけそうか
などを問うてみよう。
その次に、敵を知ることだ。
だからこそ、実際に現地にオフィスをつくり、調査と勉強のために定期訪問するのだ。その勉強代は、家賃と交通費と若干の経費だけで済む。
日本にいて、人の体験談や本を読むだけでなく、この五感を総動員して自分に向いているかいないかを感じに行くのだ。しかもその場所は上海だけでは不十分だ。主要都市を幾つか訪問してみよう。