「社長、どうしてそんなに未来を限定的にとらえるのですか?」
あぶらぜみの鳴き声を聞いているだけでジワジワ暑く感じる8月某日、建設重機レンタル会社を営むE社長(62才)と二人でビアホールへ行った。彼とは、ある会合で出会い、ワインという共通の趣味があることを知って、今日は今からワインバーへ出向く約束だ。名古屋で最高のワインバーに案内されるとあってノコノコやってきた。まずは、ここで景気づけの一杯という作戦だ。
まずは、景気経済や趣味の話、ワインの話など一通りの話題が尽きたあと、将来についての話を持ちかけた。
・どんな会社にしたいのですか
・これからどんなことに挑戦されるのですか
・どんな技能や知識を伸ばしてゆかれるのですか
・どんな人材が社内にいるのですか
すると、Eさんの顔が微妙にくもり、トーンダウンし始めた。
「いけない」と私は思った。
ひょっとして、今を生きるのに必死なのかもしれない。未来のことを考える余裕がないのかも知れないのだ。そんな段階で、矢継ぎ早に質問した私がいけなかった。
だが、Eさんのトーンダウンの原因は別のところにあった。62才という年令を問題視していたのだ。以下はEさんの話の要約。
・・・
武沢さん、あなたがうらやましい。一まわり以上若い。仕事盛りの50才代がこれから白紙で待っているではないか。それに比べて私の50代は、バブル後遺症の心痛と後処理だけでフイにしてしまった。自分でまいた種だからそれはやむを得ないが、「いざこれから」という時に、これから残された時間がそんなにないのだ。
あなた(武沢)のように外国へ出向く気力もないし、本を読む根気もなくなった。血圧もあがりだした。
会社では、単年度の経営計画は作っているが、それより長い年度の計画は作っても実感が湧かないんだよ。
・・・
この話はちょっと重い。だがEさんの現実なのだ。励ましてあげるしかないのか、それともワインの話に切り替えて、もう一度空気を盛り上げ、今宵を楽しくすごすが良いか?
ふとEさんの顔を見ると、スターウォーズに出てくるヨーダに面影が似ている。ヨーダは、日本人脚本家・依田氏がモデルになったとウワサだが、私の目の前にいるEさんも似ているのだ。
ヨーダ http://www.j-area2.com/arts/screen/starwars/yoda.html
ヨーダは870才でジェダイ騎士団の長老であり、今なお現役の騎士でもある。
「そうだ!」、私の内心で閃光がはしった。そしてEさんに次のことを申し上げた。
人はみずからの生涯を70~80年しかないと思っているから選択肢が狭められる。いっそのこと300年とか800年あると考えてはどうか。その違いは次のようになる。
<人生が70~80年しかないと思っている人の発想>
・今さら語学をマスターするなんて
・今さら未知の国へ出向いてビジネスするなんて
・今さら体を鍛えるなんて
・今から読書するなんて
・今さらお金を貯めるなんて
・今さら若い人を採用し、教育を始めるなんて
・・・etc. すべてが「今さら」から始まる。
<人生が800年あると思っている人の発想>
・今から語学をマスターして外国へ行こう
・今から体を鍛えて将来に備えよう
・今から古典や歴史、名著をたくさん読んでおこう
・今から新しいビジネスチャンスを創造しよう
・今から将来に備えて貯蓄をはじめよう
・今から人材の採用と育成に本腰をいれよう
・・・etc. すべてが「今から」で始まる。
人生が800年あると思おう。
実際の寿命がどうあっても構わない。今の心の矢印が上を向いていることそのものに価値があるのだ。