いつも同じ社員の話題をする社長がいる。ほとんどの場合、その内容はグチだった。
「またその人ですか。よくそれだけ次々に問題を起こせますね。逆に感心するほどですよ」と私。
「彼さえいなければ、うちは本当に平穏で良い会社なのですが」と社長。
「だったら追い出せばいいじゃないですか?」
「ところがそういうわけにはいかんのです」
社長がいう「そのわけ」とは、たいしたことではない。要するに人間には、問題がある人ほどそばに置いておきたいという混乱した心理があるのかもしれない。
いつ、どこで聞いた(読んだ)寓話なのか思い出せないが、内容はいまも鮮明に憶えている。それは、こんな話だ。
インドのある男は自分を厄介な立場に追いこんでしまった。それは、三人の女性とほぼ同時に婚約してしまったのだ。そこで知り合いの弁護士に相談した。すると優秀な弁護士はこんなアドバイスをしてくれた。
「すべての新聞社にあなたの死亡広告を打って下さい。我々はニセの葬儀を行いますから。そうすれば三人の女性は諦めてくれるでしょう」
彼らはさっそく行動に移した。
葬儀は感動的なものだった。出棺するときになって三人の女性が棺のまわりにやってきた。
棺のなかの遺体(の真似)をみて、最初の女がため息をついてこう言った。「可哀相な人。しらみみたいな男だったけど、いなくなると寂しいわ」
二人目の女は泣きながらこう言った。「いい気味ね。やっぱりうまくいかなかったわね」
三人目の女は腹を立てていた。「このどぶねずみ!結婚しようと約束しておいて死ぬなんて。お前が死んでいようと構わない。私のこの手でぶち殺してやる」とカバンからリボルバー(拳銃)を取りだし、棺の方に銃口を向けた。
「待った!落ち着いてくれ」と遺体が起き上がり、「あなたと結婚しよう」と座り直して言った。
人は愛している人、愛してくれる人と結婚するものと思っていたが、憎んでいる人、憎まれている人とも一緒になることがあると教えてくれる寓話だった。しかもそういうケースの方が圧倒的に多いと結ばれていたと思う。
冒頭の社長に今度その話をしてみるつもりだが、問題解決にはつながりそうもない。