「売上はすべてを癒やす」と言ったのはダイエーの創業者・中内功氏。この言葉がどんな状況で使われたのかは知らないが、中内さんらしい言葉である。全盛期には、ダイエーこそがスーパーの代名詞であり小売業界を牽引するトップ企業であった。日本の高度経済成長期に歩調をあわせて成長したダイエーだから、売上高の成長はごく自然なことであり、空気のようになくてはならないものだったと想像できる。
だがデフレが続いた昨今の状況では、「売上はすべてを癒やす」と公言する経営者は少ない。最近ある地銀の支店長にお聞きしたのだが、「取引先企業の 8~9割が赤字」とのこと。アベノミクスで今年度は改善されるだろうが、それにしても惨憺たる日本経済の現状である。
だが、「赤字が大半」という現状を経済問題にしてはならない。なぜなら、経済問題イコール政策問題、政治問題へと責任が転嫁されていくからだ。むしろ「赤字が大半」なのは、経営力の問題としてとらえよう。欧米やアジア諸国にくらべて、日本の経営者の実力が相対的に劣っていると考えたほうが健全なのである。悔しいことではあるが、赤字の責任は我にあると認めることではじめて、対策の主導権も我が握っていると考えることができる。
さて「売上はすべてを癒やす」は、一面からみれば真実だが、別の面からみれば間違っている。正しく言うなら、「売上はすべてを覆い隠す」と表現したほうが正確だろう。満ち潮によって売上高が増えれば問題点という岩礁が露出しなくなる。だが、引き潮が来たときその岩礁はふたたび露わになる。
売上高さえ計画通りになってくれたら利益はしっかり出るはずなのに実際には、予定通りの売上にならない。だから、経営計画書が毎年未達成で、目標だけがその都度先送りされていく。
そんな状況を打破するためにどうするか。
ひとつの極端な選択肢は、攻めに徹することである。「売上を伸ばす方法を真剣に考え、矢継ぎ早に実行しよう」と、顧客創造や市場創造に懸命になる。守るよりもとにかく攻めるのが好きな攻めっ気 100%の社長はこちらを選ぶ。
もうひとつの極端な選択肢は、貝のようにディフェンスを固めること。「売上を増やそうなどとは考えない。横ばいか微減でも良い。それでもしっかり利益が出る企業体質にしよう」と、支出の削減にいそしむ。守りが好きな社長は迷わずこちらを選ぶ。
大切なことは攻めと守りの両方のバランスである。しかも小さいバランスではなく、大きなバランスをとることである。そのためには、攻めっ気 100%で攻める計画を作りながらも同時に、支出削減にも攻めっ気 100%で取り組むのである。仮に売上高が昨年と横ばい(もしくは数%ダウン)でも売上高対比 10%以上の営業利益が出るようなコスト構造を作るのである。
この両方向作戦を経営計画づくりに是非とも盛り込んでいただきたい。バランスを崩してはならないのである。