「もしセクハラ・パワハラおよびそれに類することで退職する時には、1,000万円の特別退職金をお支払いします」という特別条項付きらしい。
大手商社で社長秘書をしておられた今田さん(仮名)を採用した奥山所長(弁護士、仮名)は上機嫌。なにしろ仕事がよくできて、大変美しい女性だという。
それだけではない。夜 7時から始まる異業種交流会を毎週開催しているが、その進行から懇親パーティまですべて取り仕切ってくれる。時にはホテルのバーでクライアントの経営者と夜遅くまで歓談が続くことがある。そんなときでも彼女は、一度も時計を見ることなく最後まで社長の脇でサポートしてくれる。
「よくそんな理想的な方が見つかりましたね」と私。「大企業の秘書の方はワールドワイドに活躍されていますから語学堪能はもちろん、海外出張も手伝ってくれます。今田さんをみたときも一目惚れでしたが、クライアントの秘書なので遠慮していました。
偶然、ある会合でテーブルをご一緒したのがきっかけでそれとなく打診したのが始まりです」
「待遇は常識的な範囲です」とはいうものの、給料、賞与、休日など彼女が希望する条件をほぼすべて受け入れた。
年間休日日数は106日。休日の取り方も彼女の自由にした。(ただし休日予定は 2ヶ月以上前までに決めてもらう)
奥山所長が提示した仕事の条件も厳しい。
1.「定時」という概念はない。社長が仕事をする午前 8時から午後8時までを定時らしきものにしているが、時には終電がなくなる時間まで仕事をしてもらう。
そのときにはタクシーチケットで帰宅するかホテル泊まりになる。
2.雇用者ではなく業務請負契約なので、残業、休日出勤という概念もない。ときには社長になりかわって単身出張、単身営業もこなしてもらう。
このように書くと、口が悪い人なら「奥山所長が今田さんをこき使おうとしている」と感じるかもしれないが、実態は逆らしい。今田さんは奥山所長も驚くほどのタフガールで、むしろ所長がハッパをかけらることがあるとか。
今田さんは独身だが、奥山さんは奥さんと四人の子供がいる。飾らない性格が人気でとくにビジネス問題に強い奥山さんは当然、全国各地の経営者から法律相談が多く寄せられ、北は北海道から南は沖縄までクライアントに会いに行く。そんな時には今田さんも同行するし、ホテルや旅館も同じところに泊まる。もちろん別室とはいえ、ホテルの部屋でミーティングしたり、バーでクールダウンしながら今日の反省と明日の対策を話し合うこともある。
そんなとき、「セクハラ・パワハラ 1,000万円規定」があると双方の気兼ねがいらないから、かえって遠慮せずに「部屋に来て」といえるらしい。
なるほど、よく考えたものだ。今田さんを得て奥山さんの仕事が今後どうなっていくか私は密かに注目している次第である。