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ブライアンとトムとホクサイ

昨日の続きだが、今日は敬称略。

今月上旬、NHK BS プレミアム『旅のチカラ ぼくと絵本で遊ぼう ブラザートム アメリカ』を見た。

米国人の父と日本人の母の間に生まれたブラザートム。歌手として活躍するかたわらで絵本を出版し、各地で読み聞かせも行っているそうだ。そんなトムが伝説の絵本作家・アシュレー・ブライアン(90)に会うために米国へ渡るという番組だった。

ブライアンの絵本はアメリカで大人気で、学校や幼稚園、託児所などに必ずといってよいほど備えてあるという。こちらが代表作のひとつで、『 What a Wonderful World 』(ルイ・アームストロング)を絵本にしたものだ。
→ http://e-comon.co.jp/pv.php?lid=3697

「この島の自然が大好きだから」とメイン州にある小さな島で暮らすブライアン。そのお宅を訪問するトム。90才の絵本作家ってどんな方なのだろう。

「こんにちは~」

おそるおそる玄関を開けるトム。

そこは島の子供たちが 24時間誰でも出入りできるというおうちで、たくさんの絵本や人形、オモチャなどが飾られている。ちょっとしたワンダーランドだ。ほとんどがブライアンの手作りで、トムがそれらに圧倒されていたら、吹き抜けの二階から元気な声が聞こえてきた。

「やぁ、よくきたね、ブライアンです。音楽でもかけようか」

手すりも使わずに階段を上り下りし、矍鑠(かくしゃく)とした姿を見せるブライアン。そのパワフルな話し方にも圧倒され気味なトム。

そこへ近所の女の子が三人遊びにきた。絵本を読んでほしいようだ。「ちょうどいい。僕も聞かせてもらおう」とトム。

「何がいいかなぁ」と迷いながら一冊手にしたのが『Beautiful Black-bird』だった。アフリカの民話を元にしたブライアンの絵本である。

美しい鳥たちがたくさん集まった中で、どの鳥が一番美しいかを決めることになった。そして選ばれたのが黒い鳥だった。黒い鳥が一番美しいんだ、という絵本である。

アフリカ系移民として人種差別の悲哀を味わってきたブライアンとその仲間たち。特にその子供たちを元気づける絵本だと思うのだが、島に暮らす白人の子供たちにも訴えるものがある。

アメリカの絵本の読み聞かせは、音楽家のコンサートやライブに近い。読み手と聞き手が双方向で呼応するのだ。それはこんな感じである。

ブライアン:「Beautiful Black bird」
子供A:「Beautiful Black bird」

ブライアン:更に1オクターブ高く「Beautiful Black bird!」
子供B:1オクターブ高く「Beautiful Black bird」

ブライアン:もう一段大きな声で「Beautiful Black bird!」
子供C:「Beautiful Black bird!」

ブライアン:最後に叫ぶように「Black bird is beautiful!!」
子供三人:叫ぶ「Black bird is beautiful!!」

ブライアン:「ワオ~」(絶叫)
「君たちは絵本を読むのがじょうずだね!」

うれしそうな子供たち。

「黒い鳥は美しい」というシンプルなメッセージ。だが、それは、この時、この場所にいた者だけの鮮烈な思い出として記憶されることだろう。

翌日、ブライアンは「素敵な景色をお見せしたい」とトムを海岸に連れだした。そこはたしかに美しい海岸だった。だが、トムを驚かせたのは景色ではなかった。子供のような無邪気さで石を探すブライアンの姿に驚いたのだ。やがてひとつの石を手に取り、「この石をご覧。私の人生はたかだか90年だけど、この石は数千万年生きてるんだよ」「ワ~、そうかぁ。たしかに石は長生きだ」「ほらごらん、この石はハートの形をしているよね」「あ、本当だ。きれいだ~」「私との記念にこの石を持っていってほしい。いいかい?」「うれしいです。大切にします」「今日、私はあなたに会えて本当にうれしい」「・・・・・」(感激するトム)

元気と若さの秘訣をトムに尋ねられ、こう答えるブライアン。

旅先での最初の日の朝のようにウキウキしながら一日を始めるんだ。そうすれば、見るもの、聞くもの、すべてが新鮮で感動だ。何をしていても子供のように無邪気になれるし、夜は遊びつかれた子供のようにぐっすり眠ることができる。

アシュレイの家には日本のひな人形も飾ってあった。そして思わぬ人の名も出てきた。それは「ホクサイ」だった。葛飾北斎(かつしか ほくさい)のこんな言葉をアシュレイが引用したのだ。

・・・
思えば七十歳以前に描いたものはみな、取るに足らないものだった。七十三歳になってようやくいろんなものの有り様を悟ることが出来るようになった。そして八十歳になって絵がますます上達し、九十歳には奥義を極め、百歳には神妙の域に達することだろう。百十歳にもなれば、「一点一格」活けるがごとくに描けるようになるに違いない。願わくば皆様には長生きをされ、私のいっていることが偽りでないことをその目でご覧下さいますように。
・・・

日本の北斎がこんな場面で登場するとは・・・。それを見ていて、おそらくホクサイもブライアンやトムのように無邪気な人だったのだろうと想像した。