タイトルは「破天荒な経営計画発表会」だが、経営計画書そのものも破天荒だった。
狙ってそうしたのではなく、常識的な経営計画書や発表会を知らないが故の独創性がそうさせた。
大学在学中に見よう見まねで会社を作り、社員というより仲間を集めてワイワイ会社を盛り上げてきたら、いつのまにか200名を超す人材派遣を行う会社になっていた。ちゃんとやらないといけないと『がんばれ社長!今日のポイント』も昨年から読み始めたという。
そんな A 社長(25)の会社は福井県にある。ある日 A 社長からメールが届いた。「経営計画発表会で講演してほしい」という依頼である。
「すべて我流なので至らない点ばかりですが、何なりとご指摘下されば幸いです」 前もって何度もそう言われていた。普通、そういう場合でも意外にきちんと運営されているものだが、この A 社の方針発表会は良きにつけ、悪しきにつけ、本当に我流らしさが充満したものだった。
まず驚いたのは会場の広さ。その町一番のホテルのホールが会場だった。数百人は収容できる大きさである。この会社が派遣している人材は200名だが、正社員は10名に満たないはずである。聞いてみたら、派遣スタッフの大半が出席するほか、社員や派遣人材の家族や派遣先の企業幹部、学校の恩師、地域住民などもゲストに加え、総勢400名が参加する発表会になるというのだ。しかも全員参加の懇親会までセットされている。
「経費は大丈夫なの?」と他人事ながら心配になった。
A 社長いわく、
「今日一日で1,000万円使いますが、それによる社員のロイヤリティ向上やゲストに与える企業イメージの向上は計り知れません。こんなに良い機会は他にないと思います」
「それにしても1,000万円とは思いきったね」と私が言うと、一年前に経営陣でルールを決めたそうだ。
・経常利益の30%を翌期の方針発表会の予算とする
・その予算は当該年度で100%回収を果たすことを目標にする
というルールだそうだ。
つまり、前期は3,300万円の経常利益があったということだ。しかも今日使う1,000万円は今期中に回収できる見通しがあるという意味である。その計算根拠までは聞かなかったが、何らかの効果測定策があるらしい。
「経営計画書」そのものも珍しいものだった。
表紙のタイトルには「経営計画書」と書いてない。「私たちの明日」と書かれ、スタッフによる楽しげなデザインがあしらってある。どこか
で見たことがあると思っていたら、任天堂のゲームの『どうぶつの森』のイメージに近い表紙なのだ。
最初に「私たちのビジョン」があり、次いで「仲間」として社員の紹介と個々の今年の目標が書いてある。次いで、「お客様」として、顧客企業の役員や担当者からのメッセージがある。「実績」というページには創業以来の売上と利益と派遣人材の数がグラフ化されている。いずれもカラフルで楽しげなデザインだ。
閉会後、「ずいぶんユニークでしたよ」と私が感想を言うと、 A 社長は、「そうなんですか?」とキョトンとしていた。普通の経営計画書や普通の発表会というものをご存知ないからである。
そのことは、「経営計画発表会」の運営にも色濃く表れていた。