過去5年間、経営者の方々を対象に「経営計画作成コース(6回講座)」を開講してきた。延べ200社近い企業の経営者が、多忙なスケジュールのなか、時間を割いて宿題をこなし、講座に参加される。
この活動を通して、気づく点や学ぶべきことが多々あるが、今日はとりわけ最近強く感じていることをお伝えしたい。それは、経営者の文章表現力という問題だ。
方針や目標、思想や哲学を決め、それを社内に浸透させてゆくのは、伝える技術の問題だ。せっかく良いアイデアや思想がありながら、伝える技法が乏しいがために、魅力を理解されないでいる社長が多い。
具体的に言えば、それは話し方と書き方の技術の稚拙さである。特に現場たたき上げ型の経営者は、言葉で話をすることができても文章にできないことが多いようだ。
良い文章を書くには、何はさておき良い文章を読むに限る。それに加えて、文章力を高めるための基本テキストがあれば鬼に金棒だろう。
最近では、野口 悠紀雄氏著による「『超』文章法」(中公新書)なども話題になっているようで、ビジネス界全体で文章力向上への関心の高さがうかがえる。
ところで、昭和30年台の頃だろうか。一般家庭や企業に固定電話が急速に普及した。そのおかげで人々は手紙を書かなくなり、文章の書き方を知らない若者が増えたと当時の大人たちは嘆いていたのを覚えている。
だが皮肉なもので、IT社会の進行によって私たちは再び、メールやメールマガジンなど、上手な文章を書くという課題に直面しているのだ。私自身も、良い文章を書こうという願望は昔から強く、元祖とも言うべき谷崎潤一郎から始まって、川端康成、三島由紀夫、丸谷才一など十指に余る文章技術の本を読んできた。
それ自体が読み物として楽しめるのは丸谷才一の『文章読本』に勝るものはない。だが文章技法を学ぶには、本多勝一『日本語の作文技術』が筆頭だろう。なぜならば、名文の第一条件とは、「わかりやすさ」にあるからで、それはビジネス文書でも新聞雑誌でも単行本でも小説でもすべて同じである。
「わかりやすさ」がないかぎり、いかなる名調子も駄文となる。
その点において、本多勝一の著書は、わかりやすい文章を書く技術をわかりやすく書いているのが特長だ。とくに小学生のころに漫然と教えられた句読点の正しい付け方などは、この本を教科書として子供に読ませたいほどにわかりやすい。文章力を高めようという志のある方にとって必読書である。
『日本語の作文技術』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4022608080/ref=pd_
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蛇足ながら、「カンカラコモデケア」をご存知だろうか。たしか、評論家の扇谷正造氏が著作の中で書いておられたもので、これも名文を構成する条件なので付け加えておこう。
・カン(感動、まず作者自身が)
・カラ(カラフルな情景描写)
・コ(今日性・コモンセンス)
・モ(物語性、続きが読みたくなる展開)
・デ(データ、これがあると説得力が増す)
・ケ(決意、それに行動が加わればアグレッシブな文章になる)
・ア(明るい文章)