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ダイナムの姿勢 その2

Rewrite:2014年3月26日(水)

「パチンコホールを健全な産業として認知させたい」というダイナムの佐藤社長。かつて日本格付投資情報センターのレポートで次のようなコメントが記載されたことがあった。

「ホール業界は会計基準が一本化されていないうえ、株式を公開している企業が皆無であるため、同業者間での比較が非常に困難である。また、特殊な業態であることから、異業種との収益力の比較も難しい。さらに、営業方法によって売上高や利益率が変化するため、これら数字の推移からも収益力は判断しがたい」

誰も業界の実態をつかめない、そんな業界が他にあるだろうか?
IT関連業界のような新興産業でも各種の統計が存在する。パチンコホールや機械メーカーあわせて20兆円マーケットがありながら、業界全体の経営指標が存在しない。そうした閉鎖的体質に風穴を開けようと、次の事を始めた。

1.まず自社の経営データをホームページで公開した。
2.ライバル企業の経営者をチェーンストアのシンクタンク「ペガサスクラブ」に勧誘し、業界データ集めに奔走し始めた。
3.小売業の王者・百貨店から首位の座を奪ったのはチェーンストア企業だった。パチンコも全国各地の「地方百貨店」の時代から、「全国チェーン」の時代になると信じ、その理論を経営に活かすことにした。

業界体質も、こうした自浄努力によって改善が進む。

業界の近代化を成功させるための障害は社内にもあった。それは釘師の存在だ。髪の毛一本ほどの開け閉めを行うことで、台の出玉を調整する技術はパチンコホールの生命線。それを学ぶには徒弟制に近い長年の経験とカンを要求されるのが一般的だ。
ダイナムは、そうした釘師の存在を否定した。コンピュータのデータを見れば、台ごとにどのセーフ穴に何発入ったかが全部わかる。釘調整の技術は必要だが、どの釘を開け閉めすればよいかは、誰が見てもわかる。そこでダイナムは新人教育から釘調整を覚えさせ、3~4年の現場経験があれば、簡単にマスターできるようにした。
つわものの戦国武将に立ち向かう、足軽鉄砲隊のようなイメージだ。

「売上高や利益を伸ばして、何が良いのですか?経営とは単なるエンドレスの拡大ゲームなのですか?」という質問を受けることがあるが、ダイナムの佐藤社長も家業を継いだ当初は、まったく同じことで悩んだという。
「仮に売上高目標が1兆円だとして、それを達成したからといって、それがどういう意味を持つのか?」
「汗水たらして一生働き続けた父の姿を思い出すと、喜びと悲しみの連続だったように思える。それで果たして面白い人生だったと言えるのか?人間の欲望にもビジネスの欲望にもキリがないではないか」と考え続けた。

そして、「地位も名誉も財産も、すべて個人が所有できると思うところに誤りがあるのではないか」と考えが発展する。
さらに、「ビジネスでいえば、会社を自分のものだと思うことが誤りのもとではないか。企業が世の中に存在する意味は、社会のより多くの人に、いかに貢献できるか、ということ以外には意味がないのではないか」という結論にいたった。
したがって、会社の中には秘密にすることなどあってはならないし、株式を公開することが自然のなりゆきである、と悟る。

そして同社は2012年8月6日、香港株式市場に上場を果たした。

(参考:『史上最強のパチンコチェーン ダイナム』 財界編集部刊)