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アスクル その2

Rewrite:2014年3月26日(水)

昭和60年頃、日本全国に約3万店の文具店があった。この数字は戦後から一貫して変わっていない。しかし、最近では何と40%も減って18000店になってしまった。

なぜ減ったのか?
それは需要が減ったのではなく、文具店以外の店で買われるようになっただけのことだ。スーパーやコンビニの他、ロフトや東急ハンズといった店で買われるようになったのだ。そうした環境のなか、中小零細の文具店の多くは世代交代が進まず、廃業や転業によって店舗数の減少を招いてきたのだ。
地域に密着し、顧客に直結してきた文具店にとって、今までの顧客が他店の買物袋を持って歩いている姿をみて何を感じただろうか。品揃えを充実させようにも、売り場面積は限られている。価格破壊にも限界がある。打つ手なし。

そこに登場したのが「アスクル」だ。

今日頼めば明日来る、をキャッチフレーズに中小文具店は持ち前の武器である顧客直結を活かしてアスクルカタログを配布してまわった。顧客は、FAXで注文するだけで翌日には配送される。1,000円以上の買い物をすれば送料負担もない。一ヶ月分まとめて請求書が送られてくるので、小口現金の出し入れや伝票枚数も減る。「アスクル」は、プラスの通信販売部門としてスタートしたが、その実態は、中小文具店にとっても自動的に売上げが上がる「通販ビジネス」であったのだ。

「アスクル」本体は、充実した品揃えのカタログを年に4回発行し、顧客からの注文を処理する。文具店はカタログ配布先の開拓と代金回収を受けもつという協業の仕組みを作り上げた。こうした「アスクル」のパートナーは「エージェント」と呼ばれ、文具店だけでなく、事務機販売店や印刷業者にとってもビジネスチャンスをもたらした。

97年からはインターネットでの受注も開始し、2000年5月期の売上げ471億円のうち、78億円(17%)を占めている。
アスクルカタログを入手すると、「マイカタログ」というCDが入っている。それをパソコンで見るだけで、最新カタログをディスプレイで表示できるのだ。顧客はそこで商品を選び、発注するときだけインターネットに接続すれば良いのだ。
しかも「マイレージアスクル」という独自のポイント制度によって、顧客ごとの購入履歴に応じた割引制度がある。

今、私の手元にはアスクルの最新カタログがある。スタート時は、「プラス」の製品ばかり500アイテムでスタートしたカタログが、今では、電話帳なみの厚さで12000アイテムにまで成長した。コクヨやキングジムなどの他社製品もある。文具以外にも、書籍、コーヒー、清掃用具、バッグ、飲料水、カメラ、フィルム、トイレットペーパー、ゴミ袋まで事業所で必要なものは何でも揃っている。

この充実したカタログを作っているのはアスクルの女性社員だ。年に4回のカタログ制作には文字通り、心血を注ぐという。
今でこそ、外部の専門化もカタログ制作チームに加わっているようだが、当初は女性スタッフが集まってA4の紙に6つのマス目を作り、そこに製品写真を貼っていく手作業からスタートしている。追い込みに入ると会社に泊まり込んだり、徹夜が続くこともあるハードな仕事を支えるのは木村美代子さんという若い女性スタッフなのだ。

アスクルカタログを社長自身が見てみよう。何かのイマジネーションが得られるはずだ。かっぱえびせんや、カップラーメンまで載っている。顧客からの要望に耳を傾け続けた結果がなせるワザだ。

(参考:PHP研究所刊「アスクル」井関利明・緒方知行 著)