Rewrite:2014年3月26日(水)
文具・事務用品メーカーである「プラス株式会社」の一事業部門として、94年にわずか机1個に部下3人でスタートした「アスクル」。その後、倍々ゲームの成長を遂げ、プラスから分離独立した会社として今では誰もが知る店頭公開企業にまで発展した。
その間、アスクルの売上高は、94年2億円、95年6億円、96年19億円、97年56億円、98年106億円、99年226億円、00年471億円、そして2013年5月期では2,200億円を突破した。
私たちは、この華々しい成功を消費者として遠巻きにながめるだけでなく、ケーススタディとして学ぶ必要があるだろう。
プラス株式会社は、1948年(昭和23年)に設立され、99年5月期で従業員1,120名の文具メーカーだ。
業界首位の「コクヨ」は、1920年に会社設立。売上高はプラスの3.5倍にあたる2650億円を誇っている。つまり「プラス」は「コクヨ」の後塵を拝し続けてきた。事実「プラス」は、いかに魅力的な製品を投入しようとも、コクヨの盤石ともいえる市場支配力の前にあっては、立ちゆかない苦しい立場に立たされていたのだ。
そこで1990年、社内に「ブルースカイ委員会」を設置。将来の文具業界のあり方やプラスのあり方について議論した。そして、この委員会の結論は、
1.メーカーによる顧客への直販
2.効率的な流通手法による新しい事業開拓を行う
と言うものであった。これまでは、卸売業者や小売店が顧客であったものを、最終消費者が顧客であると定義したのである。
そして、具体的な顧客像は「中小事業所」とした。なぜなら、当時全国に事業所が660万件存在していたが、そのうち30人以上の中~大規模事業所はわずか5%。残りの95%は、それ以下の小規模事業所である事実に目を付けたのだ。
私のオフィスも小規模だ。しかしずっと以前から事務用品カタログは揃っていた。コクヨもキングもプラスも置いてあった。時々それを見て注文したこともある。だが小口での注文や、急ぎの場合には近くの事務用品店や百貨店まで買いに走ったものだ。アスクルは、今日頼めば明日来るカタログ通販の仕組みを作ろうとしたのだ。
だが、障害や課題は山積していた。まず、卸売店や小売店の反発だ。プラスを支えてきた顧客である中間業者を飛び越えてメーカー直販しようというからには当然予想される反発だ。
これに対しては、メーカーも中間業者も共通の顧客を共有しあう同志として「エージェント」と称する役割を設定。顧客の開拓や物流、代金回収などの機能を専門的に扱う企業群としてパートナー化することとした。
課題はまだあった。価格の問題だ。当初アスクルではコンビニエンスストア同様、価格のニーズを軽視していたようだ。だが、消費者は価格に敏感であった。いくら便利なサービスでも近くの店より高くては利用してくれないことが分かった。「安さは妥協できない」という顧客の声にアスクルは応えた。中間業者からの反発はあったが、やり切った。
別の問題もあった。「コクヨのファイルがほしい」「キングのノートにこだわっている」というような、顧客からのブランド指定が残っていたのだ。プラス社内は騒然とした。他社製品を扱うなんて、本末転倒。非国民呼ばわりされたという。
顧客の側にたった新しいマーケットを創るということは、天動説が地動説に変わるほどの価値観変化が求められるようだ。
<明日に続く>
(参考:PHP研究所刊「アスクル」井関利明・緒方知行 著)