ビジネスとは時間との格闘技だ。
私たちは、自分が何をすべきか分かっている。「それが判らない」という人は経営者にはいないはずだ。
だが、すべきことがあまりに「骨太」であるがゆえに、実行を後延ばししていることが多々あるのではないだろうか。
課題が骨太すぎて、どこから手をつけて良いのかわからない。
そのまま放置していると、やがてそれが「イヤ」な仕事になっていく。
それを「楽しい」仕事に置き換えることが出来れば、成功は保証されたようなものだ。そうした意味で、骨太の仕事をいかに今やるか、という格闘技なのだ。
私の場合、骨太の仕事のひとつが本の原稿執筆だ。
去年から言い続けてきたのにいまだに何も出来ていない。
だが、そうした現実に大きな変化が起きようとしている。
“田口さんとの約束”がその原因だ。
田口さんとは、「百式ドットコム」 http://www.100shiki.com/の田口元さんのことである。
それは、うかつにも私が送信した「年内に本の原稿を完成させるつもり。発売は来春。」というメールから始まった。
「じゃあ、僕も宣言。年内に原稿を完成させる。お互いに計画と進捗を交換しあいながらやりませんか。」という申し出が、田口さんからまさか来るとは・・・。
軽いノリで「OK」と返事を出したものの、その後、彼が送信してきた「出版企画書」と「執筆スケジュール」は、皆さんにお見せしたいくらい緻密かつ具体的な行動計画だ。「本を出す」という一つのプロジェクトを、ものの見事に工程管理したスケジュール表だ。
「彼は本気だ、軽いノリではない。」私はそう思った。
このままでは賭けに負ける。新年早々おごらされたくない。
私はその書式をまるごと頂戴して、執筆プランを作ってみた。年末特有の様々な予定があるなかで、計画を組んでみると、どうにか出来そうである。むろん、代償は支払わなければならない。家族との買い物や友人との食事会はすべてキャンセル。日曜日も年末休暇もオフィスに缶詰めだ。
「やっぱり一ヶ月延ばししたほうが無難かなぁ」
まるで入道雲が湧きあがるように先延ばしの誘惑が私を攻める。だが、田口さんの計画書をみていると、なんと年末の一週間は西海岸へ行くことになっているではないか。旅先で執筆してでもやり遂げようという計画なのだ。
男がいったん口にした約束を、着手する前から放棄していては信用失墜はまぬがれない。「年末は忙しい」は言い訳だ。無理を覚悟で契りを交わし、計画はスタートした。
予期に反して、これが意外にも出来るではないか。しかも相当楽しく。サクサクと進むとは言えないが、確実に一歩ずつ前進していくのがわかる。
どうして今まで出来なかったのだろう?こんなに簡単なことなのに。
“むずかしくて出来ない”という仕事もあるが、むしろ放置し続けたが故に、未知の仕事を“モンスター”のような幻想に仕上げてきたのではないだろうか。
「がんばれ社長!」01/10/25号でご紹介したGEの前会長・ウエルチのエピソードを思い出す。
http://www.e-comon.co.jp/SampleE-comon/backnumber/011025.htm
ウエルチが購買部門にある仕事を指示した。それから何週間もたったある日、ウエルチは会議でその仕事の進捗状況を尋ねた。しかし、仕事はまったく進んでおらず、部下たちは分析作業と他部署との調整をだらだらと続けていただけだった。
ウエルチは激怒した。こういう仕事ぶりをもっとも嫌うのがウエルチだ。突然、会議を打ち切り、4時間後に再開すると宣言した。そして再開後の議題は「進捗状況の報告だ」と告げた。
そして4時間後、ウエルチは望み通りの報告を受けた。この4時間でそれまでの数週間よりも仕事は進んだのだ。
というエピソードだ。
私は自分の計画を作り、それを信頼した。さらに使用時間調査の記録づけも開始した。それは原稿執筆の時間を死守するためだ。
こうしたプロセスのなかで何が起きたか。それは田口さんの存在を借りた、自分自身に対するコミットメントである。
社長や専門家、それに自営業者に上司はいない。自分が自分の上司役を果たすことが必要だ。それも並の上司ではない。世界で通用する水準の上司役を自らが果たすのだ。
仕事を分解し、工程計画にする。そして日々の進捗をシビアにチェックする。最初は田口さんとの約束だったものが、やがて自分との約束にもなっていく。毎日計画と実績を対比していくことで、計画達成に対する覚悟が日々募っていく。
そんなことを気づかせてくれた田口さんとの“男の約束”である。