★テーマ別★

覚悟はネガティブに

あるとき、マカオで「バカラ」(カジノゲームの一種)に挑戦した。やってみれば意外に簡単なルールなのだが、奥が深い。最初に両替した三万円分のチップをあっという間に使いきり、「さてどうしたものか」と周囲を見まわした。近くにいた仲間のひとりが、「武沢さん、コツが分かったでしょ。もう少し遊んでその三万円を取り返しましょうよ。武沢さんならできるでしょ」と言う。その気になりかけたら別の仲間がやってきた。「武沢さん、予算を使い切ったらやめるのが一番。それより、おいしいものでも食べに行きましょうよ」という。結局その時は、おいしい夕食をチョイスしたが、もし私がギャンブル好きで、自分を過信していたら「私が勝てないはずはない。必ず勝てる。勝つまでやる」と言い聞かせてもっと傷口を大きくしていただろう。

こういう場合、ポジティブシンキングを貫くことは破滅を意味する。

3年前、『ポジティブ病の国、アメリカ』(バーバラ・エーレンライク著、河出書房新社)とい本が世に出た。いつでもどこでもポジティブに考えることが素晴らしいとは限らないと警笛を鳴らした。時と場合によってはネガティブに考えるべきであるというわけだ。

たとえばダイエットに成功する時は、あめ玉一個の誘惑も退ける。

「武沢さん、このキャンディ美味しいですよ」と薦められても、その一個が、実は一個で終わらないことを知っている。今日の一個がやがてクセになり、毎日 10個食べることになるとネガティブに考えることができるのだ。

だが、ダイエットに失敗するときは、「あめ玉一個ぐらい全然平気さ」とポジティブに考え、翌日から毎日 10個食べるクセから逃れられずに苦しむ羽目になる。

10個食べるクセをやめるぐらいなら、最初の一個を食べない方がはるかに楽なのだ。これは、ネガティブシンキングの勝利である。

「私はダイエットできる」と、まず、ポジティブに考える。次に考えることは、「ダイエット成功のために私は今までとは違う考え方と行動をしなければ失敗し、かえってリバウンドで太ってしまう危険性もある」というネガティブな覚悟が必要になる。

ゴールはポジティブにとらえ、プロセスはネガティブに覚悟するのが好バランスだと私は思う。