その他

オリジナルの人生を生きる

●「冷房が効いた掘りごたつの部屋で松阪牛のしゃぶしゃぶをほおばり、キンキンに冷えた
  生ビールで流し込む。たまりませんよ。一時間だけお付き合い下さい」

そんな誘いを受けたら断る人はいまい。
その日はE社長(50)のご相伴にあずかることにした。

●大学在学中に会社を起ち上げ、すぐに軌道に乗せたE社長。
しかしすぐに飽きてしまい、日本法人は部下に任せ、単身中国に飛んで現地法人をつくり
販路を開拓。中国を軌道に乗せたら現地パートナーに経営を任せ、自身は北米とヨーロッパの開拓に専念する。それも軌道に乗せると今度は日本にもどってまったく別の事業を最近
起ち上げた。

●「おもしろい人生ですね」と私が言うとE社長は次のような持論を語り始めた。

・・・
当社(E社長の会社)のスローガンは「90%オリジナル」です。100%オリジナルでもよいのですが、人間って互いに影響しあいながら生きてるわけですから100%オリジナルの
つもりでも実はせいぜい90%なのです。ですから90%オリジナルというのは、
100%オリジナルのことでもある。我社の製品サービスも、我社の経営方針も、
私の人生の生き方もすべて90%オリジナルといえます。
・・・

●「なるほどねぇ~」と私がいたく感心しているところに仲居さんが料理を運んできて
くれた。松阪牛のロースしゃぶしゃぶである。適度にサシが入っていて美しい。
見ただけでおもわず「ほぉ~」と声が出てしまった。

●さっそくしゃぶしゃぶして頬ばってみる。無言の口福を感じながら話を続ける。

「”人生もオリジナル” とはいい言葉ですね。なかなかそう言い切れる人はいない」
「ありがとうございます。ただ、私のまわりにはおもしろい人がたくさんいて、
 私なんかじゃ真似できないオリジナルな生き方をしてる人がたくさんいらっしゃる」
「そうなんですね、類は友を呼ぶといいますからね」
「そうなんです。さしずめ、目の前にいらっしゃる武沢先生も極めてオリジナル度の高い
 人生を送っておられるようにみえる」
「え、私ですか?」
「そうです。海外で孤軍奮闘しているとき、どれだけ『がんばれ!社長』を読んで
 発奮してきたことか」
「ありがとうございます」

●私は自分の人生をオリジナルだと考えたことはないが、たしかに個性的な人生だとは
思う。誰かを参考にしたことはない。そのつど、自分で考え、やりたいようにやってきただけだ。

●E社長に言われて考えてみたが、本好き、映画好きの私としては思うことは感動の名作はすべてオリジナルの人であるということ。

かなり前、『パッチ・アダムス トゥルー・ストーリー』(主演:ロビン・ウィリアムズ)を観て泣いた。
アメリカに実在する現役医師、「パッチ・アダムス」(1943年生れ)の実話ときいて観ているときの感動もひとしおだった。
実在の「パッチ・アダムス」の名はハンター・キャンベル・アダムス氏
(以下「アダムス氏」)。

氏に関するウィキペディアの記事は次の通り。(武沢要約)

・・・学生時代から金儲け優先の医療のあり方に疑問を持ち、愛とユーモアを根底に
おいて、人に優しい医療を目指す。ウェストバージニア州のポカホンタスに、
自分の目指す医療のできる、しかも無料で医療サービスの受けられる病院
「ゲズントハイト・インスティテュート」を設立する。
「ゲズントハイト・インスティテュート」は「お達者で病院」といった意味で、
die Gesundheitはドイツ語で誰かが突然くしゃみをした時に、そばにいる人がいう
台詞で、「大丈夫?」「気をつけて」「お大事に」といったニュアンスの言葉である。
12年間そこで無料の診療活動を行った。
パッチ・アダムスは、さらに社会的な活動家でもあり、一種の民間外交官でもあり、
プロの道化師、アーティストで俳優でもある。たとえば、彼は毎年世界中のボランティア
たちと共にロシアに出かけて、孤児や患者やそのほかの大勢の人たちを喜ばせたり、
希望を持たせるようなチャリティ活動をし、1998年にはボスニアにも出かけている。
・・・

●私はE社長にその話を手短にお聞かせした。

「たしかにそうですね。人が感動するというのはコピーではなく、
 オリジナルだからですね」

<つづく>