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芸と粋(すい)は似て非なるもの

芸と粋(すい)は似て非なるもの

●30代から40代にかけて10年間私は代理店ビジネスで営業のプレイングマネジャーを
していた。そのときの上司が岡本社長という方で、私がメルマガを開始した三年後に
急逝されたのがとても残念である。
たしか氏はまだ60歳だった。

●岡本社長から学んだことは実に多い。
「芸は身を助く」と「粋は身を滅ぼす」の違いについても氏から教わった。

●「三州瓦」(さんしゅうがわら)で有名な愛知県三河地方で生まれ育った岡本社長は、同級生が何人も三州瓦の会社を経営していた。
肌つやの美しい粘土素材の三州瓦は、石州瓦、淡路瓦と並ぶ「日本三大瓦」の一つ。いまも約100軒の業者が三州瓦を作っているが、最盛期にはその何倍もの業者があった。

●岡本社長の実家は書店。町の本屋だが、最大規模だった。
70年代後半から80年代にかけて空前のゴルフブームが起きた。羽振りがよかった三州瓦の社長たちは我先にゴルフ道具を買い込み、練習場で腕をみがき、スコアを競い合い、ゴルフ会員権を買った。

●「お前もやらんか」と岡本社長は何度も誘われたが、店を他人に任せられるほど経営に余裕はなかった。「そんなヒマはない」と断るしかなかったが、内心は羨ましかったそうだ。

●その後、皮肉なことに空前の不況がおそった。三州瓦も一気に売れなくなった。業者が次々に倒産していった。
80年代の半ば、私が初めて岡本社長とお会いしたときこんな話を聞かせてくれた。

「武沢さん、ひとつのことに打ち込んでほしい。話を聞くとあなたは多趣味のようだがそれは危険だ。この数年で私の友人たちがどれだけ倒産・廃業をしていったか。まずあそこと、ここと、あちらと・・・」
両手の指を折っていった。

●きっちり10社の名前を言ったあと私が忘れられないひと言を追加した。
「ちなみにこの10社はね、社長がみんなシングルゴルファーだったんだ」

要するにハンデキャップ10未満のすご腕ゴルファーだというのだ
「ゴルフのスコアと会社の財務は反比例するね」と付け加えた岡本社長。

●私の父が大垣で「ゴルフショップ兼ゴルフの会員権販売」の仕事をしていたので、すこし申し訳ない気がすると私が言うと、岡本社長はこう言った。

・・・
あなたのお父さんは「芸は身を助く」を地でいかれた方だ。大好きなゴルフを仕事にして
家族を養ってるんだから立派なもんだ。だが、私の同級生の多くは「芸は身を助く」ではなく、「粋(すい)は身を滅ぼす」の方だ。芸と粋は似て非なるもの、はき違えてはいかん。
・・・

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