世界経済

WSJの75%と11%

WSJ(Wall Street Journal)10月20日号の記事に「株価低迷どこ吹く風、投資しない多くの米国人」と題する記事があった。

記事によれば、米国人の41%は株式市場に一切投資していないそうだ。
世帯年収4万ドル(600万円)未満の人たちはなんと75%が投資をまったくしていない。
その理由は「投資する余裕がない」わけだが、余裕のある人でも投資しない人たちがいる。
世帯年収10万ドル(1500万円)以上でも11%は株に手を出さない。
その理由は「仕事や年金で生活できるので、株価の上下動で心を疲弊させたくない」というのだ。

その気持ちは私も理解できる。
保有している株価が下落し、資産が大きく目減りしたあの感覚というのは実にイヤなものだ。
ただ、このタイミングでWSJがどうしてこんな話題をとりあげたのか。
そこに私は注目した。
答えは明快だ。
米国人の多くが今、株式市場の下落で心をわずらわせているからである。

今年の年始から10月21日までの日米の株式市場はこんな結果になっている。

          年始    現在
1.日経平均株価 29,000円 →26,900円    (▼7.3%)
2.NYダウ     36,400ドル→30,300ドル  (▼16.8%)
3.NASDAQ      15,900ドル→10,600ドル  (▼33.3%)

こうしてみると日本株の下落はまだマシで、NASDAQの惨状は目を覆うばかりだ。
コロナショックのときNASDAQは40%下落したが、今年に入って10ヶ月でそれに匹敵する下落を続けている。
これでメンタルを平常に保つのは並大抵なことではない。
アメリカ人投資家の多くは株価が下落することに慣れてない。
なぜなら、リーマンショック以降の13年間、右肩上がりの株価に慣らされてきたからだ。

「株が上がらないってどういうこと?」
「私の資産が減っていくのだけどどうしてくれるの?」

という感覚ではあるまいか。

日米の値上がり・値下がりの銘柄数も調べてみた。

         日本株(3,901銘柄) アメリカ株(5,520銘柄)
値上がりした株  1,194銘柄(31%)   1,142銘柄(20%)
値下がりした株  2,583銘柄(66%)   4,040銘柄(73%)

日本株で7:3の割合で下落。米国株は8:2の割合で下落した。
エネルギー関連などごく一部が上昇したが多くの投資家が好むハイテク株や国際優良株が下落した。

「保有株を売るべきでしょうか?」

というご相談をよく受けるが、投資銘柄が優良銘柄(4K企業)であってPERが割安なのであれば保有が正解だと思う。
長期の貯株投資家が株を売るのは次の四つの時だけだ。

1.目標資産額に到達し、持ち株を処分するとき
2.株価が急騰し、実体以上に過大評価されだしたと思うとき
3.株を買った理由がなくなったとき(ファンダメンタルズの変化
4.もっと優れた投資対象が見つかったとき

私が貯株しているAmazon株も丸2年以上株価は上がっていない。
だが売却理由は見当たらない。
ファンダメンタルズに揺るぎはなく、むしろ長期の成長シナリオは明るさが強まっていると判断している

ただ、Amazonほどポジティブになれなかった米国株は今年すべて手放した。
これまでの成長と収益を支えてきた要因がなくなった、あるいは魅力が失せたと思えたからだ。
経営判断に首をかしげるケースもあったし、社会的な状況変化や、相対的な競争力の低下などもあって株価上昇は当面「期待薄」と判断したものはすべて手放した。

「長期の貯株投資でも株を手放していいのですか?」
もちろん「いい」のだ。
上記の4大理由に合致したら、いかなる銘柄でも即刻売るべきである。
Buy&Holdのつもりで慎重に選んだ銘柄でも状況が変わってしまったのなら素早く売ろう。

私のAmazon投資は来年で8年になる。
5年、10年、20年と長期保有できる銘柄が複数誕生してくるとポートフォリオは安定する。
あとは時期さえくれば、苦労が一気に報われる
その苦労とは「貯株を継続する苦労」「株価が上がらない(下がる)ことに耐える苦労」だが、それができない人がWSJが報じる「75%」と「11%」になるわけだ。

投資しない人は確実に平穏を得る。しかし、資産家になることを実質上、放棄することにもなるのだと思う。