時間経営

読書と学業・仕事の科学的関係

たえず三冊程度の本を平行して読んでいるが、寝る前に読む本は文学系や思想哲学系が多い。
『文学が好き(荒川洋治)』『読書会という幸福(向井和美)』ときて、いまは『遅読のすすめ(山村修)』である。
この本は気に入っていて三度目になる。

多読、速読がもてはやされるいまの時代にあって、あえて「遅読」を説く本はすくない。
ゆっくり読むことによって得られる豊かな読書体験が筆者の実体験をもとに述べられている好著だ。
特に福田や立花などの速読派の連中をやんわり斬って捨てるところはなかなか愉快だ。

私の読書法は50歳までワンパターンだった。
早く沢山読みたいと思ってもその術(すべ)が分からなかった。
ところが17年前、51歳になった年に読書教育家の寺田昌嗣さんと出会った。
氏がたまたま「がんばれ!社長」を読んでくださっていたおかげで氏の方法論をマンツーマンで習得することができた。
6日間の猛特訓は私にとって光栄であるばかりかすこぶる幸運だった。
その後の読書体験が劇的に変わったのだ。

そもそも私は速読に不向きな人間だと思っていた。
むかし読んだ速読の本がよくなかったのだと思う。
ページ全体をカメラのシャッターを押すように1ページ1秒で読む、という類いの右脳フル回転式のメソッドだったのだ。
超がつくほどの左脳人間である私にとってはSFの世界に飛び込んだような不思議さだった。
目の前にいる人の似顔絵すら描けないのに、通りすがりの人の似顔絵を描けと言われているような気がして速読を諦めかけていた。

寺田さんのやり方は左脳型だ。(私見ながら)
まず姿勢と呼吸を正すことから始まる。
いや、前夜の過ごし方からトレーニングが始まる。
たっぷりの睡眠、それに前日は断酒することが受講の条件なのだ。
したがってトレーニングはまず眼球チェックから始まる。
飲酒したら眼球の血管が充血して赤くなる。
わかりっこないと思い、前夜に缶ビールを飲んだが、8時間寝れば大丈夫とたかをくくっていた。
寺田さんに「ゆうべ飲みましたね」とあっさり見破られ、特訓を一日棒に振ったこともある。

寺田式は本と目の距離を一定に保つ。
その上で活字を追いかける眼球をなめらかに動かすトレーニングをする。
現在はどんな指導法になっているかは未確認だが、誰でも身につけられる速読法としてすべての方におすすめできる。

そんなことから私は現在、三つの読書モードをもちあわせている

  • 意識的にゆっくり読む「遅読モード」(文学作品に多い)
  • 意識的に速く読む「速読モード」(ビジネス書、新聞、雑誌、Webに多い)
  • 50歳までやってきた「通常モード」(参考書、マニュアル、資料、メールなどに多い)

ところで寺田昌嗣さんとはどんな方なのか。
実は社会人のための速読指導というのは氏のひとつの側面に過ぎない。
もともと高校の先生だっただけに根っから教育者である。
近年は「読書教育」の分野で知見をたくわえておられる。
ユニークなのは、学生たちの読書体験と学業の成績が密接な関係にあることを証明しておられる点。
学校教育のカリキュラムに読書教育がないことが子どもたちの成績にブレーキをかけているのではないかという氏の仮説には私も賛同する。

正しい読書の方法を学び、読書の喜びを知ると学校の成績も伸びて当然だろう。
まず教科書や参考書に対するアレルギーがなくなる。
テストや試験の問題も理解できるようになる。
にもかかわらず学生たちの読書離れは深刻で、寺田さんによれば「ほぼ半数の大学生が読書せずに大学を卒業する」そうだ。
そんな学生が新入社員として社会に送り出されても急に読書好きになるとは思えず、企業は社員教育で苦労することになる。

寺田さんは志ある人だ。
単に嘆いているだけではなく行動を起こした。
このたび、大学生(1年、2年、3年生限定)を対象にした読書教育・速読教育を【無料】で開催するというのだ。
学生にとってこんなにありがたいチャンスはない。
会場は渋谷で、全4回の講座が行われる。
最終講座のみオンライン参加可能。

講座の成果が氏の研究データにもなるそうだ。
つまり、「本が速く読めるようになった気がする」といった主観的な話ではなく、科学的にデータを集める。
しかも速読した本が一夜漬けの丸暗記みたく記憶に定着しない読書法だったら意味がない。
速読と記憶の関係のデータも集める。
ちなみに寺田式読書法の効能については「日本読書学会」が発行する「読書科学」という学術誌に査読論文が掲載されることになったそうだ。
すでに学会お墨付きのメソッドでもあるわけだ。

大学生をお持ちの親御さんや知り合いに大学生がいる方にぜひ教えてあげたいイベントだ。
あなたのお知り合いにも教えてあげてください。
大学4年生は対象外なのでご注意あれ。

★寺田さんのフォーカスリーディング集中講座
 (大学1~3年生対象、無料)
 → https://onl.sc/mEWpY3F

<寺田さんのプロフィール> 
 https://www.kotonoba.jp/terada_profile/