実話ベース物語

博才(ばくさい)なんて存在しないのか

知人のS氏は25年前、ラスベガスで旅行会社を立ちあげた時ひとつの誓いを立てた。
それは「決してカジノに手を出さない」というものだった。
実はギャンブルが大好きなので、24時間眠らない街・ベガスでカジノにうつつを抜かしてしまったら歯止めがきかなくなることを知っていたS氏。
事実、ラスベガスで仕事をしていながらギャンブルで身を滅ぼしていった人の話をたくさん聞いていた。

当時、日本風居酒屋で成功している先輩経営者からも「S君、ラスベガスはカジノをやるのではなくやらせる場所だ。
それを間違うと3年後、君はここにいない」と忠告されていた。
誓いをかたく守って仕事に専念したおかげでS氏はラスベガス最大の日本旅行社をつくれたわけだが、ベガス以外のカジノタウンでは大金をつぎ込んでギャンブルしている。

好きなカジノはリスボン(ポルトガル)とレッドヤード(アメリカ)で、どこへ行ってもバカラしかやらない。
独自のベットシステムを守って賭ける。
横で見ていてもストイックな雰囲気でギャンブルの熱さや楽しさとは無縁のスタイルだ。
マカオの「ザ・ヴェネチアン」でも私が見ている横で着実にチップを積み上げていった。
S氏はマカオにも投資目的の会社をもっているが資本金はバカラで稼いだものだった。

ある日S氏に「博才がある人はちがうね」と褒めてみたことがある。
すると彼は印象的な言葉を返した。
「博才という才能は存在しません。武沢さんだって経営は才能じゃなくて上達するかしないかのものだと言ってるじゃないですか。ギャンブルも同じです」
「なるほど」
「まず勝ちたいという気持ちが強いかどうか。強ければおのずと、どうしたら勝てるかを考えるようになる。すると勝てそうな方法が思い浮かぶ。それを現場で試してみる。すぐにはうまくいかない。でもあきらめずに改良を加える。それを何回かくり返すうちに、勝率が5割をほんの少し上回るようになる。そこまでに何年もかかるかもしれないし、何ヶ月で済むこともある。いまはネットで手口も公開されているので、さがせば全部答えは見つかりますよ」

そういえば別の知人が競馬でご飯を食べている友だちがいると話していた。
「複勝投資法」といってひとつの投資なのだそうだ。
「複勝」というのは3着以内に入賞する馬を当てるわけだが、的中率が高い分、払い戻し金額も少なめになる。
ローリスク・ローリターンだが、それで資産づくりができるというのもあり得ない話ではない。
なにしろバカラで勝ち続けているS氏を知っているので「複勝投資法」だって可能性はあると思うのだ。

時効なので告白するが私も30年ほど昔、パチンコに没頭した時期がある。
しかも「パチプロになる」と決めて打ち込んだ。
その類いの本も読みあさった。
これもひとつの科学なのだが、詳しい話は省く。

開店から閉店まで打ち続けた日が何度もあるが必ずポケットメモを持参した。
「〇番台で△時×分に□□□が大当たりした」とその場で記録し、家に帰ってからExcelにデータを打ち込み統計をとった。
月間通算でプラスになるのに時間はかからなかったが、収入を時間で割ってみたらコンビニのアルバイトより安い時給だったのでパチプロになる夢を捨てた。

今日は読者の皆さまにギャンブルのすすめをしたいわけではない
ギャンブルという偶然性の高い運試しのようなものであっても、冷静に科学することで勝ち筋を発見することができるということだ。
少ない回数なら偶然と運が左右するが、やり続けることによって科学がうまれる。
そこに勝機が生まれるのだ。
ビジネスや人生を偶然と運によるギャンブルに終わらせないためにもプロギャンブラーの話を聞いてみるのは悪くないと思う。