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続・床屋の大将と懲りない社長

投稿日:2021年12月14日 更新日:

続・床屋の大将と懲りない社長

●「また金(きん)なの?」
昨日、今年の漢字が何度目かの「金」に決まり、ひねりの乏しさに拍子抜けする思いがした。
東京五輪が金メダルラッシュに沸いたことや、スポーツ界や将棋の世界で数々の金字塔がつくられたことなどが理由らしい。

●もっとほかに世相を切り取る漢字がありそうに思う。
公募で決めるから無難な漢字ばかりがくり返し選ばれることになる。
決め方を刷新するなどして、世間の注目を取りもどすような決め方と発表の仕方を考えてみてはどうだろうか。

●さて今日の本題は昨日のつづき。
床屋の大将が歩道上に置かれた三角コーンで転倒し右肩を複雑骨折。
ひと月の休業を余儀なくされた実話の後半をお届けしたい。

●私のオフィスから床屋までは徒歩3分と近い。
大将から「ひと月ぐらい休ませてもらうよ」と電話が入った。
ひと月の休業は長い。
待ちに待ったひと月後、行ってみると金属プレートが入った右肩をかばいながら髪を切る大将の姿は痛々しかった。

●「大将、その三角コーンの社長に会ってこなきゃ。
ひと月分の営業補償にプラスして損害賠償もしてもらわないと」と私。
だが大将は苦笑して「別にいいんですよ」と受け流す。
大将は骨折当日にコーンの社長に会ってきたらしい。
会ってビックリ、なんとその社長は以前からのなじみ客だったというのだ。

●「え!まじで?」と私。なんたる奇遇だろう。
コーンの社長にしてみれば、床屋の大将が突然会社にやってきたので、営業の挨拶まわりだと思ったらしい。
ところが会社の前のコーンにぶつかって怪我をしたと聞き、「そりぁ悪かったね」とまず詫びた。
だが同時に人間性がうかがい知れるような嫌みが口から出た。

「大将、あなたもアメリカ人じゃないんだからそんな事で訴えたりはしないよね、半分は自分も悪いんだから勘違いしないでよ。現にほかの人たちは今もこうして安全に通行しているわけだから」

●穏便に済ませたかった大将も社長の発言にカチンときた。
(この人、こんな人だったのか)と内心で失望しつつ警告した。
「怪我をしたのが僕だったからいいですよ、穏便に済ませようと思っていますから。ただ、コーンをあそこに放置しておいたら第二・第三のけが人が出ます。穏便に済ませてくれる人ばかりとは限りませんから社長も注意したほうがいいですよ」

●営業を再開してすぐにコーンの社長が髪を切りにきた。
「すまなんだね、これお詫びというか退院祝いで持ってきた」と菓子折を持参した。
ひょっとして、まんじゅうの中に一万円紙幣が敷き詰めてあるのでは、と大将は勝手に期待したが中味はエビせんべいだけだった。

●髪を切り始めるとコーンの社長はいつもの様子で軽口を始めた。
時々、右肩が痛くて顔をしかめる大将に気づいているはずなのに一切怪我のことには触れない社長。

●なんて無神経な人なんだろうと思う大将だが、髪を切るうちに考えが変わった。
「この人は70歳前後になるはずなのに、人の心がまったく分からないで生きてきた。ある意味でかわいそうな人だな」と。

●「その後、コーンは撤去されましたか?」と大将。
するとコーンの社長は平然と言った。
「大丈夫だよ。”コーンにご注意ください” と機会音声で知らせているから。夜はライトアップして目立つようにしている」

(ダメだ、この社長は懲りない)
もうコーンのことを気にするのはバカバカしくなった。
こういう社長のもとには良い人材が定着しないだろう。

●エビせんべいは家族で分け合うつもりだったが、全員エビが苦手だった。
結局大将ひとりで全部食べたところ、3年ぶりに痛風の発作が襲ってきた。
どこまでもコーンの社長は間が悪い。

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