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床屋の大将と懲りない社長

床屋の大将と懲りない社長

●話題になっているので『あなたの番です 劇場版』を観てきた。
公開直後なのでネタバレになるようなことは書かないし、感想を言うのも控えたい。

●「誰でも一度や二度は人を殺したくなるときがあるでしょ」という設定で始まるドラマ版が話題になり、劇場版までつくられたわけだが、ドラマを見ていない人でも楽しめる映画になっているようだ。

●私は冗談でも「殺す」という単語が口から出たことがないが、この作品は、他人を殺したい人がたくさん登場する。
そもそも現実の世の中で他人を殺したいと思ったことがある人ってどの程度いるのだろうか。
せいぜい100人に一人か二人程度ではなかろうか。
そう思いながらネットを調べてみたら、2004年の小中学生157人を対象にした調査結果があるのをみつけた。

●それによれば「ネット利用中、誰かを殺したいと思ったことがある」小中学生は39%もいるという。
そんなにいるの?唖然とするしかない。
『あなたの番です』がそういう人たちにウケているとしたら「楽しめる作品」なんてのんきな事を言っている場合ではない。

★小中学生の39%が「誰かを殺したい」
 → https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0406/07/news049.html

●短気は損気というが、以下は実際にあった話。
まるで作り話みたいだが、最初から最後まですべて本当の話。
細部の表現や情景描写だけは私の想像が混じっている。

●ある街に菓子問屋の社長がいた。
自社ビルを保有し、その隣の空き地も自社のもので、最近、時間貸しの駐車場にした。
ところが一部の利用者が駐車する際、自社ビル玄関前で方向転換する。
玄関ギリギリまで車を寄せるので危ないし、社長も社員も気になる
そこで一部の “常習犯” の車種とナンバーを覚え、社長がそのつど直接注意するようにした。

●だが方向転換者は一向に減らない。
そこで玄関前に進入禁止の三角コーンを置くことにした。
「どうだ。これなら方向転換できないだろう」と社長は自分の知恵を社員たちに自賛した。
しかし故意か過失かはわからないが平気でコーンを踏み倒しながら方向転換される。
こうなるといたちごっこだ。

●今度はコーンを二倍の大きさのものにし、一つでなく二つ置いた
しかも絶対踏み倒されないようにホームセンターで重石を買ってきてコーンの土台に置いた。
さすがにそれで方向転換者はいなくなった

●「こういうのが知恵というもんだよ」と社長は社員に自慢したが、社員は「なにか起きなければいいが」と思っていた。
社員の不安は一週間もしないうちに現実のものとなった。

●50歳の男性が朝7時ごろ、その道を自転車で通りかかった。
近そこにコーンが置かれたことは知っていたが、二つに増えているとは知らない。
ましてコーンが大きくなり、そこに重石が乗っていることなど知るよしもない。

●運の悪いことに道の反対側に新しい飲食店が近日開店の看板をだしており、男性は一瞬(ほんの2~3秒)だけ看板に目をとられた。
自転車の男性はかなりのスピードでコーンにぶつかり、自転車もろとも転倒し激しく右肩から歩道に落ちた。

●ドサッ!
「う~ッ」

動けない。
男性は何が起きたのか分からなかった。
幸いヘルメットで頭部は守られていたが、下になっている右手がまったく動かない。
通勤客が増え始めている時間帯だったので男性は周囲を気づかいながら立ち上がり、フレームがゆがんだ自転車にまたがって職場までゆっくり走った。
最初は痺れて感覚がなかった右手だが、やがて肩のあたりの痛みがどんどん激しくなった。

●その50歳の男性は、私の行きつけの床屋の大将だ。
大将はしばらく店で休んでいたが右肩の痛みがひかないので、骨折か脱臼だと思った。
当日の予約客全員に電話でキャンセルし、近所の総合病院に向かった。
鎖骨を複雑骨折しており、プレートを挿入する緊急手術を受けることになった。

●手術後、「二ヶ月安静」と医師から命じられたが床屋を二ヶ月も休むわけにはいかない。
一ヶ月分の予約客すべてに電話しキャンセルしてもらった。
無論、電話は私のところにも入った。

そして大将は意を決した。
右手を吊しながらタクシーに乗り、コーンの社長に会いに行った。
事実は小説より奇なりというが、その社長がまさか・・・。

<明日につづく>