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A社長の決断 

Rewrite:2014年4月1日(火)

買い物かごメーカーのA社は、20年前にA社長とその友人であるB専務が二人で創業した。出資比率は7対3の割合でA氏が多かった。
社業は順調に発展し、今では社員数100名を越える中堅メーカーに成長した。ところが、専務のB氏には経営能力が乏しい。持ち前の営業力を武器に会社の発展に貢献してきてくれたが、B氏には役員としての適性に欠ける要素を三つ持っておられた。

その三つとは、「経営知識の不足」であり、「現状満足の気持ち」であり、「病弱な肉体」だった。持病の胃潰瘍で10日に一回は病欠するし、海外出張は絶対不可能だった。その間に若手が成長し、B専務の立場が中途半端なものになってきた。

A社は今後、アジアでの生産拠点作りや、新型買い物カートの製造販売など重要課題をたくさん抱えており、ナンバー2の専務にどこまで期待できるのか社長としても心細くなってきていた。そしてとうとうA社長は最近、決断した。B専務を呼びだし、次の役員改選(来年)では取締役として再選しないと告げたのだ。

それはどういうことか。

B氏は専務でも取締役でもなくなり、別の肩書きになることを意味する。ひょっとしたら執行役員になるのかも知れない。あるいは株主として経営をチェックする側に回ってもらうことなのかもしれない。社長はB専務と友人でありパートナーだと思ってきた。従って部下育成という視点をB専務に対しては持ってこなかったことも問題を大きくさせた可能性がある。

こうしたケースは中小企業では珍しくはない。

取締役を解任する方法は三種類ある。

・本人からの申し出による「辞任」
・任期満了(普通は二年間)にともなう「退任」
・株主総会の決議で役員を辞めてもらう「解任」

任期中の役員を「辞任」するということは、自らの能力の足りなさを認めることでもあり、退職する場合を除いては難しい。
「解任」も同様に力ずくでの行為なので出来れば避けたい。一番自然なのは、このA社のように「任期満了」をもって退任してもらうことである。しかも事前に猶予期間を与えての満了なので優しい処遇といえた。退任したB専務はその後どうなるか?それは今のところわからない。
考えられる選択肢は、
・株主としてA社の経営をチェックする
・会社を辞め、持ち株も売却する
・特定部門の執行役員として社内に残る
・社員として社内に残る
・その他

B氏としては、社長と一緒に会社を作ったメンバーなのに、どうして役員から外されなければいけないのか納得できていないはずだ。しかし、役員とは本来そういう立場なのだ。設立メンバーだからとか、株主だからということは関係ない。

B専務が任期満了にともなって退任する場合に備え、役員退職金を支払う準備も済ませたA社長。今後、会社も両氏の関係もうまくやっていただきたいものだ。