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その利益は再現できますか?

その利益は再現できますか?

●人間、目標をもつのは良いが手段を誤るとお客や友人を失う可能性がある。
行きつけのクラフトビール専門店のマスターが私をみつけて話しかけてきた。
「武沢さん、仮想通貨で損してませんか?」
「え、ぼくなら大丈夫です。ビットコインには投資してないから」
「だったらいいけど、いま暴落で大変ですよね、中国ではマイニングすら出来なくなったんでしょ」
「みたいね」

●このマスターは昨年ビットコインに10万円投資し、それが何倍にもなったと喜んでいた。だけど悔しそうでもあった。
「こんなに一気にあがるなんて信じられない。10万円しか買ってなかった自分を殴ってやりたい気分ですよ。100万円、いや、もっと勝負すべきでした。武沢さんも悔しいですよね?」

●「え、ぼく?全然悔しくないよ」
平然とそう言う私をきょとんとした表情でながめるマスター。何だかショックを受けたようだ。
「こんなに騰がったのに悔しくない人がいるなんて驚き」
心底おどろいている様子だったが、私はこれっぽっちも悔しくない

●勝ちに再現性がある勝負なら勝ち方を究めたいと思う。だが、マスターみたく仲間のススメに一口乗っただけの行為は投資とはいわない。
賭けである。賭けにかってもあぶく銭。再現性がないので勝とうが負けようが次につながらないから手を出さない。
それをマスターにわかってもらいたいが、ビールの品揃えが豊富で来ているだけなので、マスターと議論するつもりはない。

●ところが先日はやっかいだった。
マスターが仮想通貨のネットワークビジネスにつかまったようなのである。名前は忘れたが、宇宙的なネーミングの仮想通貨だったと思う。
一生懸命勉強したのだろうが、カタカナ用語を連発し今が投資のチャンスと熱っぽい口調で語るマスター。

●「50万円の投資が100倍になる可能性がある。武沢さん、夢があるでしょう?」
どうやらマスターは50万円払い込んだらしい。気の毒だがこれっぽっちも夢を感じない話だった。ブロックチェーンをつかった仮想通貨の普及をどうしてアナログの口コミやセミナー開催に頼っているのか、その時点ですでに矛盾がある。

●ブロックチェーンや仮想通貨(最近では暗号資産という方が多い)に興味をもつことは素晴らしいし私も興味がある。だが、踏み外してしまって友人やお客に儲け話の勧誘を始めてしまうとその他大勢のネットワークビジネスと変わらなくなってしまう。

●「マスター、それって仮想通貨ではなく仮装通貨じゃないの?」と冷やかそうとしたがやめておいた。出禁になるのもいやなのでニヤニヤしながらラガーを飲み干し店を出た。店の敷居がほんの少し高くなった気がする。