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スタンダールとWish-List

スタンダールとWish-List

●フランスの作家スタンダールは『恋愛論』のなかでこんな名言を残している。
・好かれる相手が多くなるほど、通り一遍の好かれ方になる
・広く好かれれば好かれるほど、深く好かれないものだ

こうしたことは恋愛に限ったことではない。
夢や目標も多すぎると、すべてが通り一遍なものになる。

●昨夜、友人から電話があった。10年ぶりくらいだが、一切の前置きを省いて彼はこう言った。

「最近のメルマガで武沢さんはWish-Listのことを書いてたよね、僕も書いてて何百ものリストがあったのだけど、この前、一瞬にして3個になった」

アメリカに渡ってスケール感のある仕事をしている彼のこと。
次々に夢を実現し、願望の残りも3個になってしまったのか?だが、聞いてみるとそうではないようだ。

●以下、彼の話を要約するとこうなる。
・・・
ボクのWish-Listが一瞬にして有象無象のリストと化すような出来事があった。
詳しくはいえないが、ひとりの美しい女性との出会いでそうなった。
ボクは彼女を口説き落とし自分の女性にすると心にきめて、Wish-Listにそれを書いた。
するとその瞬間、リストにあるその他のものが有象無象に見えてきた。
だから、二つを除いてすべて削除したのさ。
・・・

●いやいや、ちょっと待って欲しい。
突っ込みどころがありすぎてどこから質問してよいかわからない。
10年ぶりの電話にしてディープ過ぎるではないか。
その時間、私はZoomセミナーをしていたが、たまたま休憩中にくれた電話だ。
残り6分しか時間がない。
事情が許せば会って話を聞きたいが、彼はかまわずに美しい女性のことを語り続けた。
私はそれをさえぎり、残りふたつのWish-Listのことを尋ねた。

・・・
残ったふたつのうちのひとつは、ジェット機の操縦免許をとってプライベートジェットを買うこと。
そして最後の三つめのWishは、ジェットの操縦学校に通っていて最近思いついたもの。
それはボクが入学時に学長と面談したときに質問されたことに始まる。
学長はボクにこう聞いたのだ。
「お前の望みは免許を取って飛行機を操縦できるようになることか?」
ボクはとっさに考えた。
あらためてボクの望みは何なのか、その瞬間に考えてみたのだよ。
ボクの自分の人生の望みは飛行機操縦なのか?とね。

もちろん答えはノーだよ。
だからボクはとっさにこう言ってやったのさ。
「ボクの望みは飛行機の操縦なんかじゃない」
「じゃあなんだ?」
「幸せに老いて死ぬことだよ。それがボクの望みだ」
「・・・。お前、おもしろいやつだな。これ済んだらビール飲もう

●彼は相変わらず切れている。
老いることと死ぬことはネガティブワードにつき、Wish-Listに書く人はいない。
むしろ老いたくない、死にたくないと考えるほうが自然だ。
だが、彼はあえて「幸せに老いて死ぬ」とWish-Listに書くことで、この先に待っている自然現象をポジティブ化した。

●私の休憩時間が終わる30秒前に彼は電話を切った。
直前に私は確認した。
「この話をメルマガで書くよ?」
彼はジョークで返した。
「構わない。ただし、○○○(共通の友人)という名にしてくれ」