その他

本社は要る?要らない?

本社は要る?要らない?

●先週木曜日のメルマガで書いたように、中世ヨーロッパで起きた黒死病(ペスト)で当時の欧州人の3分の1が亡くなった。
当時のヨーロッパは日本の江戸時代みたく封建制で、市場では物々交換が行われていた。
そこに貨幣というものが誕生し農民が豊かになった。
さらに黒死病で人口が減り、土地が安くなったことから商業が発展し、市場経済が生まれ、封建制の崩壊へとつながっていく。

●「ペストと貨幣」が社会を変えたように「COVID-19と仮想通貨」が新しい時代の象徴となるかもしれない。
少なくとも企業と社員の関係は、従来よりもドライでプロフェッショナルなものになることは間違いない。
そのとき企業がまっ先にすべきことは人事の改革である。

●『日経ビジネス』 2021.01.11号の特集テーマは「コロナ後の会社・・・人の組織の覚醒チャンス」というもの。
先進企業の様々な取り組みが紹介されており読みどころ満載だった。
今日はその中から幾つかの記事をピックアップしてみたい。

1.「本社はクラウド上でいい」

2020年12月、東証1部アステリア(ソフト開発)は品川の本社に神主を招き、おはらい会を開いた。
本社スペースを半減するにあたり、10年以上お世話になったオフィスに感謝の意を表してのおはらい会だった。
同社ではコロナ禍で95%の社員がテレワークになり、商談も9割以上がオンライン化。
セミナーやイベントは100%オンラインになった
にもかかわらず業績は最高益を更新中とあって、「テレワークから戻す理由がない」(平野社長)。
社員がいなくなった本社スペースを半減させることを決めたわけだが、狙いはコスト削減だけではない。
平野社長は「オフィスの定義を変えた。
必要な時に必要なだけ使うもの」と割り切った。
今後、本社は物理的なオフィスの所在地ではなくクラウド上でも良いという考えだ。

2.従業員を守るためには従業員をもっと知る

コロナ禍はピラミッド型組織を破壊し、よりフラットな組織形態への移行を強く要求している。
ソフトウェアの品質保証やテストを専門とするSHIFTでは社員の状態を知るための独自開発ツール「ヒトログ」を活用している。
その内容は従業員のアンケート結果をもとに年収の推移や持っている資格情報、趣味や部活動まで項目は多岐にわたるが、普通あまり計測しないデータも取る。
会社に対するロイヤリティーやメンタルの状態などだ。
20年4月からは出社時の朝、日中、退社時と1日3回体調や働く環境等についての調査を実施。
10月からは調査項目を刷新し、体調や生産性についての調査も始めた。
従業員のセンシティブなデータを取ることに対し及び腰になる企業は多いが、同社の丹下社長は意に介さない。
「守るためには知らなければならない」という経営哲学があるからだ。

「ヒトログ」のイメージはこちら。
https://industry-co-creation.com/icc-fukuoka-2020/58813

3.新卒初任給から格差があって当然・・・ソニー復活は人事から

2019年春にソニーに入社し、AV機器のソフト開発に携わる山岡美香さん(仮名)は、入社して間もない頃の感激を今も思い出す。
山岡さんは「新入社員の初任給は平等」と言う日本企業の原則をソニーが大企業で初めて崩した最初の年の入社者だ。
ソニーはこの年、仕事の役割や重要度に応じて定めている職務の等級であるジョブグレードに新入社員も位置づけ始めた。
山岡さんは現場担当者レベルに当たるグレードが付与された。
同期の中には付与を見送られた人も少なくなかったから高い評価である。
彼女が大学院時代にプログラミング言語を複数習得しソフト開発のスキルを身に付けていたことに加え、入社後3カ月間の働きぶりが認められたようだ。
山岡さんの場合、基本給にあたるベース給が年収換算で90万円程度同期より多くなると見られるのだ。

●いかがだろう。
同誌では、それ以外にも「電通」や「りそな」の新しい人事制度も紹介している。
こうした企業独自の人事がめざすものはいずれもコロナ以降の新しい会社と社員の関係づくりを模索してのものである。
会社と社員が雇用者と被雇用者の関係から、支援と貢献でつながるフラットな関係になろうとしているのだ。
男女の遠距離恋愛がうまくいかないことが多いように、遠隔勤務を維持するための求心力をどう保つかが経営側の大きな課題と責任になる。