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「嫁」問題と言葉狩り

「嫁」問題と言葉狩り

●靴下の上場企業「タビオ」の公式Twitterで先月、「嫁」という言葉を使ったことがネットで炎上し、正式に謝罪するという珍事が起きた。
それを受けて日テレ『スッキリ』のMC・加藤浩次氏は「少数意見を気にしすぎて、会社の方が『嫁』という文字を書いて謝罪しなきゃいけない状況って僕は異質だと思う」と疑問を投げかけた。

●「嫁」という漢字の語源をたどると、家に仕える女性をさしていることから、たしかに「嫁」は差別用語っぽくみえる。
だが、漢字の語源を調べてひとつひとつムキになって言葉狩りする行為そのものがナンセンスだと思う。

●漢字が生まれたのは、今から3300年前(約紀元前1300年)の中国「殷王朝」のこと。
神との対話のために生まれたのが漢字の始まりである。
当時から女性は神に通ずると信じられており、多くの神事にかかわっていたことや、漢字を作成する作業は男性中心だった(推察)ことから、女性がもつ多彩な動きや性質を漢字にもちいた。
したがって「女偏」の漢字がたくさんつくられている。

●常用漢字に指定されている漢字のなかで「女」が使われているのは次の38個ある。

婚、妥、姉、婿、媒、要、妃、桜、接、好、妻、奴、努、怒、如、嫁、婆、嫌、委、妹、姓、威、婦、娠、妄、嫡、妨、姻、安、妊、嬢、娯、妖、妙、娘、姿、姫、始。

一方、「男」が使われている常用漢字はひとつもない。

●対象を常用漢字以外の漢字にまで広げると、辛うじて次の五つの言葉で「男」が使われている。

「甥」(おい)、「舅」(しゅうと)、「娚」(ぺちゃくちゃしゃべる、めおと)、「嬲」(なぶる)、「嫐」(たわむれる、なやむ)

●こうした漢字の成り立ちを無視して「言葉狩り」をしていたら、何も言えない息苦しい世の中になってしまう。
「言葉狩り」を問題視したのはSF作家・筒井康隆氏。
氏の作品『無人警官』が平成五年の「高等学校国語1」につかわれ、そのなかに次の文章があった。
「テンカンを起こすおそれのある者が運転していると危険だから、脳波測定機で運転者の脳波を検査する。
異常波を出している者は、発作を起こす前に病院へ収容されるのである」。

●日本てんかん協会が「てんかんに対する差別を助長する」として削除を求めた事件から「言葉狩り」という用語が広まっていった。
1993年の出来事である。

●たしかにこの一節だけをみれば協会側の主張も理解できる。
だが、文学作品の表現の、しかも前後の文脈を無視した指摘は「言葉狩り」といわれてもやむなしだろう。

●もういちど謝罪に追い込まれた「タビオ」のTwitterをみてみよう。
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ところで、明日は休日ですね!皆さんは何します!? 私は、嫁から「とりあえずこれを読め」と佐々木倫子先生の「Heaven?」を全巻渡されたので読みます。
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これに抗議したい人がいるのなら、それは「タビオ」ではなく文科省に「漢字を変えろ」と訴えるべきではなかろうか。