Rewrite:2014年4月1日(火)
応接室でかなり待たされた。
社長があわてて入室し、こう言った。
「武沢さん、お待たせして申し訳ない。約束を守らない部下が多くて困ってるんですよ。期待が裏切られると、つい我慢ならずに叱る時間ばかりが長くなってしまって。もっと根本的な意識改革をせねばならんのでしょうな」
「社員の意識改革ですか」
「ええ、自分たちの給料は自分たちが責任を果たすことによって始めてもらえるものだ、という意識を持たせる必要があると思うのですが、どうですか。」
「具体的には何をするのですか?」
「評価制度をもっと能力主義、結果主義にすることと、プロの自覚についての研修を強化する必要があるのじゃないかと」
「なるほど、給料と研修ですか・・・」
給料の仕組みを変えただけで社員がにわかにやる気になり、今までとは別人のように自覚を持ちだした、という会社はたしかにある。しかし、それは給料に過敏に反応する社員が多い会社のことであって、普通はそんな簡単な問題ではない。給料制度を変える前に、ツール(道具)とシステムを変えることが先決なのである。
『なぜ日本企業では情報共有が進まないのか』(田坂広志著 東洋経済新報社)にこんな例が紹介されている。
・・・
かつて哲学者のフリードリッヒ・エンゲルスが「道具が意識を進化させる」という言葉を残していますが、人間の「意識」は、新しい「道具」が生まれることによって大きく変化し、進化してきました。人間の「意識」は、新しい「道具」が使えるようになると、自然に変わっていくのです。
これをわかりやすく言えば、昔から言われることわざになります。
すなわち、「切れ味のいいハサミを持つと、紙を切りたくなる」ということわざがありますが、優れた「道具」を手にすると、人々は、それを使ってみたくなるのです。
(中略)
ただ、「手段」を生み出したからといって、何もせずにいたら「意識」が変わるわけではないのです。では、どうすればよいのでしょうか?先ほどのことわざに、もう少し言葉をつけ加えなければなりません。
「切れ味のいいハサミを持つと、紙を切りたくなる」ではなく、「切れ味のいいハサミを持ち、他の人が上手に紙を切っているのを見ると、紙を切りたくなる」と言うべきでしょう。
・・・
部下の意識改革のために研修や賃金制度に力を入れるだけでなく、使ってみたくなる道具を他の人が上手に使っているのを見せてあげることである。結果としてそれで仕事の仕方が変わり、意識が変わってくるというのだ。
心構えと行動は魔法のペアなのである。