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無くした物は出て来ない(ふつうは)

無くした物は出て来ない(ふつうは)

●昨日の午後、
「こちらはNTTドコモです。おかけになった電話はお客様のご都合によりおつなぎできません」
おっかしいなぁ、何度電話してもでない。
Tさんほどの資産家が電話代を払ってないわけがない。
FacebookメッセンジャーやLINEにおくったメッセージも既読にならない。
私はスタバで本を読みながら一時間近く待ったが、あきらめてオフィスに戻った。
Tさんに一体なにがあったのか心配になっていた。

●そうこうするうち、夕方5時ごろ香港から着信があった。
Tさんからだった。
以前、香港在住のときに使っていたガラケーからで、スマホをどこかでなくしてしまい、心当たりの場所に電話しても見つからないと途方に暮れていた。

●「なので、たけちゃん。バタバタしていて約束をすっぽかしてすまない。この借りは必ず返す」とTさん。
私は、「そんなことよりスマホを真剣に探して下さい」というとTさんは「いや、一日中さがして出て来ないのでもうあきらめた。明日、新しいのを買いに行く」と諦めモードだった。

●(せめてもう少し探してみませんか?それに、あとひと月もしたら新型のiPhoneが発売されるので、タイミング的にも悔しいじゃないですか)
内心でそう思ったが言わなかった。
なぜなら「なくした物は出てこない」がTさんの信念だからだ。

●Tさんとはアジア各地を一緒に訪れている。香港マカオに始まって上海、北京、青島、常州、深セン、珠海、広州、台湾、バンコク、ハノイ、ホーチミン、ヤンゴンなど、少なくとも15回はご一緒した。
私は日本国内では物をなくしたことがないが、海外では高い確率でなくす。
特にバンコクでは、スマホ2回とKindle端末1回の計3回なくした。
私の紛失騒動は「武沢先生の風物詩」と現地の経営者に笑われているほどだ。

●だが不思議なことに私の紛失物は毎回もどってくる。
それをみていてTさんは「たけちゃんは本当に運がいい。私もそうだし、私の知人もそうだが、無くし物や落とし物が戻ってくることがないのがアジアだ。外国は日本と違うんだよ」と何度も何度もTさんに言われた。
私の近くにいた人たちも、その話は何回も耳にしたはずだ。

●30年ぶりに住まいを名古屋に移されたTさんだが「なくした物は出て来ない」という信念が日本でも続いていたのだろう。
新しく買う気になっていた。
ところが昨夜遅く、警察官二人によって自宅にスマホが届けられた時にはさすがのTさんも涙目になってしまったそうだ。

●今朝とどいたTさんのメッセージはめずらしく敬語だらけだった

「何と何と、昨夜21時過ぎに警察官2人が無くした携帯を自宅に届けて下さりました。全く涙目になってしまいました。世界を周り、日頃から日本人は世界一だと皆様に伝えて来ましたが、自分がその体験をさせていただきました。勿論、夜遅く自宅まで届けてくださった警察官も素晴らしいですが、携帯を拾ってくれた方の素晴らしい行為には頭が下がります。名もつげずに帰られたそうです。深い話はまだまだあります。次回お会いした際に、詳しくいきさつをお話しします。やはり私は、残った人生は人のため、特に日本人の皆様のためにがんばりたいと強く思った次第です。ありがとうございました。」

77歳のTさんが涙目になった。今日はいい日だと朝から思った。