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道場六三郎氏の場合

道場六三郎氏の場合

●『料理の鉄人』が話題になったのは1993年から1999年にかけて。
今みてもおもしろい番組だが、当時60代だった「和の鉄人」こと道場六三郎氏(みちば ろくさぶろう)は圧倒的に強かった。
なにしろ31回出場し通算成績は27勝3敗1分け(勝率9割)。
ライバル達を圧倒していた。

●そんな道場氏も今年89歳。
今も料理人兼経営者としてがんばっておられる。
氏が経営する『銀座ろくさん亭』、『懐食みちば』はともに銀座にあり、私も一度行ってみたいと思いつつ、まだ機会が訪れていない。

★銀座ろくさん亭 https://www.rokusantei.jp/
★懐食みちば https://kaishoku-michiba.jp/

●以下、敬称略。
むかし気質の板前は、手取り足取りワザを教えることはしない。
輩のわざを勝手に盗めという世界だ。
道場(みちば)も石川から東京に出て板前の世界に入ったとき、まず先輩に気に入られようとした。
職人の中には人間関係の大切さに気づかない人も多いが、人間関係を良くすることも職人として大切な修行と考え、道場は先輩の下駄を磨いたりした。

●人気の料亭や料理店には全国から腕のいい職人が集まる。
そんな中、大切な料理を任せてもらえるのはほんのひとにぎり。
どうしたらそのひとにぎりになれるかが料理職人の勝負だ。
そこで道場は考えた。

「他の人が2時間でこなすことを1時間でこなしたい。他の人が3年かかって習得する技術を1年で身につけたい。そういう気持ちが常に自分の中にあったんです。どうしたら1秒でも速くできるのか、と」

●その向上心が道場を育てた。
道場と同じ石川出身の漆芸家・大場松魚氏は「人間国宝」に選ばれているが、氏の仕事術は道場と同じだ
大場はこんなことを述べている。

・・・
私は時計と競争する。
だから夜も昼もあったもんじゃない。
例えば、ひとつの品物を作るのに、この一面はさっき一分で塗れた。
じゃあ次は55秒で塗る。
それも同じようにきれいにきちんと仕上げる。
からトイレに立てば立った分だけ、時計は先に進んで仕事は何もできない。
時計と競争してこいつを負かすことはなかなかできませんけどね。
時々は勝つようなことがありますよ。
人間は「頭」があるからです
時計のリズムは一定だが、人間は「この仕事をこの時間までに仕上げるんだと腹を決めれば、グッと時間を短縮することができる。
だから仕事を速くしようと思えば目標時間を決め、それに対して集中攻撃を掛けることです。
そうすれば1分速くなるか5分速くなるか、いくらかでも速くなるんです。
そうやって時計に逆ねじを食らわせるような意気込みで仕事に向かうことが大切です。(『致知』2008年1月号)
・・・

●道場六三郎の仕事術はダンドリ重視でもある。
『料理の鉄人』でも道場はまず、つくる料理のメニューを墨で手書きしていた。
それが行動計画の役割を果たしていたのだ。
道場はこう語る。
「綺麗に速く仕事をするためには、2手、3手先を考えながら手を動かす必要がある。料理において段取りというのはすごく重要な要素ですからね。お客さんだって待たされるのは嫌ですよ。リズムよく料が
提供されないと、やっぱり調子が狂いますから。よし、これはやった。次はあれだ、といった調子で段取りを確認したいんですよね」

●お客さん思いであることも職人成功に欠かせない。

「大切なのはお客さんの立場で考える心意気ですよ。たとえば満席になった状態でお客さんが来店したとします。普通はお断りするかもしれない。だけど僕はわざわざ来てくれた方を帰すわけにはいかないと考えてしまう。だから冬のエレベーター前で待つお客さんに(これでも飲んで待っていてください)とヒレ酒をお出ししたりするんです。行列が長いときは『千疋屋』のパーラーで待っていただき、迎えに
ったこともあります。そういうおもてなしの積み重ねが大事だと思うんです」

(あすにつづく)