Rewrite:2014年4月1日(火)
あるときセミナーでこんな質問をした。
「あなたが目標とする会社はどこですか、会社名を書いて下さい。その理由も書いて下さい。制限時間は3分です」
猛烈な勢いでペンを走らせる人がいる一方で、うで組みしたまま、何も書けない人がいる。結局、制限時間になっても白紙に近い人がいた。先行きの焦点が定まっていないと会社は迷走することになる。
かつて松下幸之助氏が健在のころ、関西で講演を引き受けた。松下は「ダム式経営」の話をしたという。
ダム式経営とは、経営というのは資金も人もすべてダムに水をたたえるがごとく余裕を持って経営をしなければならないというのものである。表面だけを聞けば、まったく当たり前のことだ。当然、講演が終わってから1人の経営者から質問の手が挙がった。
「松下さん、あなたは、経営はダムに水をたたえるように余裕をもって取り組め、とおっしゃる。それはその通りですが実際はなかなか余裕のある経営はできません。わたしはどうしたらそのダム式経営ができるかその手法を聞きたいのです」
その質問に対して松下は壇上でしばし沈黙したという。しばし空白の時間があり、松下は次のように答えたという。
「ダム式経営がどうしたらできるか、わたしもようわかりませんのや。やり方はようわかりませんが、とにかくダム式経営をしたいと強く願うことですわ」
そういって松下は笑った。意表をついた答えに会場中が爆笑の渦に包まれた。これを松下一流のユーモアととらえたか、「それでは松下さん、答えになってませんで」という嘲笑のヤジが飛んだ。たしかに、とても質問に対する答えにはなっていない。
ところが、このやりとりを聞いていた一人の男に電撃が走っていた。場内満席のため立ち聴きしていた創業間もない京セラの総帥・稲盛和夫氏である。稲盛氏は、「とにかく願うことですわ」という松下の言葉が魂を貫いたという。それ以来彼の信条の一つが「強く願う」というものになったというのだ。
経営に“絶対”はあり得ない。すべての決定や選択は、その時点ではうまくいくかどうか分からない。しかし、まず「強く願う」という京セラの信条が生まれたのはこの時だと稲盛氏は言う。
私たちが強く願っているものは何か、いつでも即答できるようにしておきたいものだ。
あなたにも質問したい。
「あなたが目標とする会社はどこですか、会社名を書いて下さい。その理由も書いて下さい。制限時間は3分です」