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新入社員の君へ

ある会社の会議に招かれた。私が「20年間、経営者向けメルマガを発行してきた」と自己紹介したら一部から驚嘆の声があがった。
一人のベテラン幹部が挙手し私にこう言った。

「私はどうもネットが苦手で、LINE以外は何もやっていません。武沢先生はご自身の名前や顔をネットでさらしてこられたのですよね。もちろん勤務先の住所や電話番号までも公開するのですよね。誰かから発言の責任を問われたり、反対の考えをもつ人間から個人攻撃にあうようなことはありませんでしたか?」

いかにもネットに疎そうな方の考え方である。
私はネットであろうとなかろうと自分の発言や行動には一定の責任がともなうと思っている。
だが一定以上の責任はおわない。
あくまで有限責任である。
「武沢さんのメルマガの通りにやったら失敗した。責任を取ってくれ」と言ってくる人はいないのである。

先月、ある会社に頼まれて社内報にメッセージを書いた。
新入社員に送るメッセージとして「選択の自由」について書いた。
研修資料にするそうでかなり長文だが、一部を抜粋してご紹介したい。

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新入社員の君へ (がんばれ!社長  武沢 信行)

学園生活の勉強にはたいていの場合、正解と不正解があった。
その正解率の高さをテストで競い合うのが学業の目的の一つでもあった。
成績が優秀だった学生は、正解率が高く、そうでない学生は正解率が低かったわけだ。
しかし社会に出ると「正解」「不正解」がある問題はほとんど出されなくなる。
それにかわって自由選択の問題が増える。
例えば、貯金をすべきかすべきでないか。
するなら幾らするか。
本を読むべきか読むべきでないか、読むなら何をどの程度読むか。

こうしたお題には正解・不正解はない。
あなたが選べばよい。
選んだことの結果をあなた自身が負うことになる。
あなたの選択に対して職場の上司や友人、親が口を挟むことはない。
もし口を挟んだとしても、
それは口だけのことであってなんら拘束力はない。

あなたには選択の自由が与えられた。
どこで何をしてもよい。
法律や公衆道徳さえ守っていれば、あなたは何をしてもよい。
最初のうちは慣れないから、周囲がどうしているかを見回すことになるかもしれない。
周囲と同じことをすれば、一人だけ恥をかくようなことはしないで済むだろう。
だが、いつまでも周囲の様子をうかがって生きるのはやめたほうが良い。
みんなと同じでいたいという「同調圧力」に負けない、個性的なあなた自身を作りあげていってほしい。

今回あなたが選んだ会社には会社独自の思想や哲学があるはずだ。
おそらくそうしたものに共感できたから入社したのだと思う。
もしそうではなく、何となく入社してしまったのだとしたら、もう一度職場の上司や先輩、あるいは経営者から直接「わが社の価値観や哲学はどのようなものがありますか?」と聞いてみよう。
きっと「経営理念」「社是」「社訓」「行動指針」「行動規範」「評価基準」「賞罰規定」といったものが存在するはずだ。
それをよく理解し、その内容をあなた自身の価値観の一部にしよう。
そうすれば、あなたは間違いなくその会社で活躍し、幸せになれる。

万一、会社の考え方に賛同できない、まったくピンとこない、というのであれば選択肢は二つしかない。
もう一度会社を選び直すこと。
それをしたくなければ、もうひとつの方法を選ぼう。
会社に働きかけて理念や思想を作りかえてもらうようにすることだ。
通常、それにはしかるべき実績なり経験を積んで発言力を高めておく必要があるが、稀に例外もある。
新入社員の若々しい意見が会社を変える場合もあるので、あきらめずやってみてはどうだろう。

正解・不正解がない選択問題がたくさん出されるわけだが、世の中にはそもそも選択肢すら与えらていない問題もたくさん存在する。
新入社員のうちは「これをやってほしい」と言われたことを正確かつ迅速にやればいいので難易度は低い。
だが中堅社員になれば、「この商品の売上を100万円にしてほしい」とか「前年比で15%アップの売上を作ってほしい」といったリクエストに変わる。
そこに選択肢はなく、自由回答の白紙問題を渡されたようなものだ。

さらに管理職になれば、誰からも出題されなくなる。
自分が自分に出題する必要があり、それができるのが管理職だ。
「売上を伸ばすべきだ」と考えたなら、上司にその計画を自ら提出する必要がある。
言われてからそれをやるようでは管理職といえない

さらにその上の経営者になれば、そもそもわが社は今の事業を続けていてよいか?もし変えるとしたら、何の事業をどの国(地域)でどのような方法で手がけるべきか。
10年後、50年後、100年後、日本と世界はどのようになっているか。
わが社はどうなっているべきか、といった、世界観、大局観をもって自社の進むべき道を決めることが仕事となる。

新入社員の君へ。
君はわが社では間違いなく新入社員だが、自分会社の社長であるという点においては、私たち全員が対等な立場でもある。
ともに社会を良くしていく仲間として切磋琢磨しようではないか。

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